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2008.7.12開設。 ショートショートを中心として、たそがれイリーが創作した文芸作品をご覧いただけるサイトです。 できれば毎日作品を掲載したいと思ってます。これからも創作意欲を刺激しながら書き綴って参ります。今後ともぜひご愛顧ください。

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     占い師は神妙な顔つきで語った。
    「奥様、ご主人・・・社長には死神が憑いておられますぞ」
     その言葉をゆっくり噛み締めながら、社長婦人は言う。
    「続けてください。私はどんな言葉も受け入れる勇気を持っています」
     
     占い師は社長夫人に言われるがまま、水晶玉に手をかざしながら言う。
    「社長は、日ごろの傲慢振りで多くの敵を作り、恨みを買っておられます。さらに、愛人というか妾というか、女性関係からも多くの敵を作っています。いずれの関わりにあるものかはわかりませんが、とにかく社長は殺されます。ピストルで頭部を一撃される姿が見えるのです・・・」
    「そうですか。それで、犯人は見えるのですか?」
    「犯人・・・ですか」
    「そう・・・犯人です。何か手がかりになるようなことはあるのですか?」

     占い師は無念の表情を浮かべる。
    「奥様、残念ながら・・・犯人の姿を見ることはできません。私の力ではこれが限界です」
     占い師が指し示す水晶玉の中には、おぼろげな黒い人影。男女の区別すらわからない。

    「それならいいのです。それなら」
     私が犯人だとばれなければいいのですから・・・社長夫人は、心の中でつぶやいた。

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    「今度は何の願いかのう・・・まあ、人間のことだ。たわいのないことじゃて」
     顎鬚を右手で無造作にいじりながら、神様は眼前の青年につぶやいた。
    「神様からご覧になれば、たわいのないことかもしれませんが、私にとっては一大事です」
     青い野球帽をかぶった青年は、緑色のビニール傘を開きながら、神に願った。
    「私はヤクルトのファンなのです。しかし、今年の成績は・・・」
    「ああ、なんだ。今まで阪神とやらのファンが、願ってくるばかりしておったわ」
    「お察しいただけますか」
    「要するに、今度はヤクルトとやらを、強くすればいいのじゃろ」
    「よくぞお察しくださいました。私はそれをお願いにあがったのです」
    「わかったわかった。じゃあ、チョチョイとかなえてしんぜよう」
    「チョチョイと・・・なんとまあ、あっけない」
    「わしもこう見えて、忙しいのでな・・・では早速、ヤクルトが強くなりますように!」

     翌日の朝、開けようとしても開かず、砕こうとしても砕けない、鋼のような容器に入ったヤクルトが宅配されて問題になるとは、誰も想像しなかった。

     国会議事堂の周辺は、多くの警察車両と人員で埋め尽くされた。
     国会期間中を狙った、総理大臣や閣僚、国会議員をターゲットにした、立てこもり事件。
     犯人たちは正義の武装集団と名乗り、唯一取材を許したテレビ局のカメラに向かい、このように宣言した。
    「我々はこの国を美しい国にするのだ!我々の要求を呑むことが、政治家たちの命を救う条件だ」
     
     リーダーと思しき男は、要求を簡潔に述べる。
     その1。我々の同士たる人間を、刑務所より釈放すること。
     その2。我々の政治理念を受け入れ、速やかに合法化すること。
     その3。我々の身柄を安全に開放し、外国行きの飛行機を手配すること。

    「だそうです、長官。どういたしましょう?」
     総理大臣も含めて人質になっている状況で、この件の解決を求められている警視庁長官。
     彼は額に汗を浮かべながら、部下に指示を出した。

    「すべて却下しろ。しかし・・・」
    「しかし?」
    「代替プランとして『外国行きの飛行機に税金食いの政治家どもを乗せて追放する』と言え。条件を飲んでくれれば国民はきっと君たちを救世主にするだろうよ、と付け加えてだ」

    「おめでとう!通算10000ポイントだよ!」
     目の前に煙がたちこめ、それが消えると木の杖をついた老人。
     まるで神様みたいだな。そう思っていた男に、老人は言う。
    「わしはご覧のとおり神。さっき、君は車にはねられそうになった子どもを助けたね。それで10000ポイントなんだよ」
     神と名乗る老人の言葉を、男はさっぱり飲み込めない。
     神はまるで小説の種明かしをする筆者のごとく、説明じみた台詞をはく。
    「人間の振る舞いに、神はポイントを与えているのじゃよ。それが節目になった時、わしらの出番なのじゃ」
     よくわからないが、自分が何かの恩恵にあずかれるのだろうと言うことはわかった男。
    「さあ、10000ポイントだと、お前の望むことを1つだけかなえてやろう。多少制限はあるがな」
     多少? 男は鋭い目線を神に向ける。
    「ただし、何でもかなえてくれとか、何回でもかなえてくれとか、そういうのはだめだ」
     神は予防線を張りつつ、男に返答を催促した。

     男は少々考えると、神に願いを告げた。
     ポイント100倍でどうだ、と。
     そう、今日以降の善行に、ポイントを100倍でつけてくれ、と。
    「むむ、そんな抜け道があったとは・・・回数を増やすわけではないし・・・むむむ」
     やむを得まい。わしの説明が悪かったのだ。よかろう。
     神は脂汗を浮かべながら、男の願いをかなえることを約束した。

     神が姿を消してから、男はなんだかよくわからない気分であった。
     だが、目の前で神が神らしく一瞬で姿を消したことを見て、懐疑的な気分は薄れていた。
     そして、早く善行を積まねばと、都会の喧騒の中をきょろきょろ見回していた。

     すると、目の前で老婆が荷物を抱えて困っている。
     これはすごいポイントになるぞ。男は手前の横断歩道が赤信号なのもかまわず疾駆した。
    「おいおい、そこの旦那」
     老婆にたどり着く直前に、男はいきなり右肩を叩かれた。
     男は怒り心頭の面持ちでその方向に振り返ると、黒いコートを羽織った男が、八重歯を出して笑っている。
    「あんた、悪いことしたね。俺は死神さ。罰を与えに来たぜ」
     罰? 何を言うんだ? 男は死神に食って掛かる。
    「お前、さっき信号無視したろ。それでポイント達成だ。お前さんの悪行、死んで償ってもらえとの裁定だよ」
     死ぬ? 悪行? 信号無視で?
     男は死神の首をつかみ、渾身の力で締め付ける。
    「何をやっても無駄さ。お前さんのポイントは100倍だったからな」
     
     100倍?
     さっき神は約束したが、それは善行ポイントのはずだ!
     男は死神に食って掛かった。
    「ああ、100倍だろ。善悪ポイント。お前さんの悪行も100倍になるんだよ。神の野郎、ちゃんと説明しなかったのか?」

    「最近、うちの猫が姿を消してしまってね」
    「おや奇遇だね。我が家のジェフリーもいなくなってしまったんだよ」
    「犬も猫もですか。我が家はハムスターがいなくなってしまいました」
    「あら、うちは家の中のねずみが居なくなってしまったんですのよ。衛生上はよろしいのですけど、気味が悪いわ」
    「うちの犬は、この寒いのに水に入りたがっていてね・・・泳ぎなんか嫌いだったはずなんだけど」
    「それはきっと、天災の前触れかも知れませんなぁ」
    「町内会長さん、そんな洒落にならない冗談を」
    「いやいや、新潟の地震の時も、北海道の地震の時も、発生の前にあらゆる小動物が姿を消しましてね・・・あながち、冗談だとも言い切れないですよ」
    「ついに関東大震災がくるのかしら・・・」
    「帰って備えを万全にしておかないといけないな」

     そのころ、日本国内のあらゆる海岸で、小動物が泳ぐ姿が目撃されていた。
     『日本が危ない』と泣き叫びながら荒波に身を任せる犬や猫たちの言葉は、人間たちに届かなかった。

     

    「課長いる?」
    「いらない」
    「・・・じゃあ、部長はいる?」
    「いらない」
    「・・・専務はいる?!」
    「いらない」
    「あのねぇ、いるとかいらないとかの話じゃなくて、僕が聞きたいのは、今そこに課長や部長や専務は居るかって確認してるの。わかってくれないかなぁ」
    「うちは水族館じゃないですよ。なんで課長や部長や専務がイルカなんですか。確かめるにも値しない」
    「イルカじゃなくて居るか! 君と遊んでいる場合じゃないんだよ! とっとと誰かに変わって!」
    「君だなんて失礼な。人を卵扱いして」
    「黄身と白身の話をしてないんだよ! いいから電話、誰かに変わってくれよ! おたくの会社はどうなってるんだ!」
    「だから、うちはマニア専門の会社じゃないです・・・」
    「ヲタクじゃないよ! 社長だ、社長出してくれ! 文句言ってやる!」
    「えへん、この私が社長だと言ったら、どうするね」
    「・・・」

    「君も中堅どころなんだから、そろそろしっかりしてくれないと困るなぁ」
     
     はいはい。すみません。

    「この前も渡してるでしょ。あのマニュアル、ちゃんと読んでる?」

     読んでますよ。
     ええ、もちろん、嘘ですけど。

    「読んでたらさぁ、こういう失敗って、正直ありえないんだよね」

     でも、現実に起きてますよね。
     もちろん、マニュアルなんて読んでませんけど。

    「君がさ、まだ25歳だから許されてるけど・・・その点、心得ておいてよね」

     あ、読んでます、読んでます。
     本当は32なんです、年齢。

     社長はとある本を懐に忍ばせていた。
    『褒めると社員は伸びる』と書かれていた本には、社長が一夜漬けで調べたフレーズの部分にラインが引かれていて、社長は社員に見えないように、使いたいフレーズを見ては、社内を歩き回って1人1人社員を褒めて回った。
    「君の姿勢はいい姿勢だ。人柄がにじみ出ているよ」
    「残業ばかりもいいが、たまには自分を大事にしろよ」
    「へこたれたっていいんだ。失敗は成功の元だからね」

     社長の言葉に、社員は素直に反応した。
    「ありがとうございます」
    「これでやる気がおきました」
    「お気遣いありがとうございます」
     
     その言葉を聞いて、社長はもちろん喜んだ。これなら効果ありだな、と。
     早速書店に行って新たなボキャブラリーを増やさないといけないな。
     社長は早速その足で近所の書店に向かった。
     流行のジャンルゆえ、選ぶのに困るぐらい、関係の書籍はあった。
     悩んでいる社長を、書店の店主が呼び止める。
    「社長、この本がお勧めですよ。最近、どんな世代にも売れてるんですよ・・・特に、若い世代に」
     若い世代と聞いて、社長はその本に飛びついた。これならきっとうちの社員にも効果てきめんだろうと思った。
     その本の表紙には『社長に気に入られる答え方』と書いてあった。

     ワゴンに載せられてきた朝食に手を付けようとする大統領の前に、補佐官はいつものように現れた。
    「大統領、人口爆発の件ですが・・・」
    「ああ補佐官、その件での、君の話は聞き飽きたよ。話なら、このブレックファーストが済んでからにしてくれないか」
     ナイフでスクランブルエッグを口に運ぶ大統領は、補佐官の言葉に一瞬動きを止めた。

    「人口爆発を解決しました」
    「・・・なんだって」
    「ですから、解決したのです」
    「・・・どういう事だね、補佐官。君のデータによると、あと半年もすれば人口の増加に食糧増産は追いつかず、餓死者が100万人発生する時代が来ると言っていたのは・・・」
    「何を隠そう、私です」
    「では、どうやって・・・」

     補佐官はメガネをかけ直しながら、ニヤリと笑った。
    「簡単なことです。人類を減らせばいいのです」
    「減らす?」
     補佐官はそう言うと、銀色の防護服を取り出す。
    「先ほど、誤作動と言うことにして各国に配備しておいた、核ミサイルを一斉に発射しました。あと5分で避難してください。ここにも1発飛んできますので」

     一人の学生がいきり立って教授の前に現れた。
    「納得がいきません。私がどうして留年するのですか」
     教授は、当たり前の台詞を学生にぶつける。
    「それは、君の成績が悪いからだよ」
     
     無論、それで納得する学生ではない。
    「物理の成績が悪いからですか? そもそも、私は医学部の生徒ですよ。物理など医師には必要ないでしょう!」
    「それでも、医師はバランスの取れた思考回路が必要なのだよ。物理はそう言う意味で必須だと思うがね」
     苦虫を潰したような顔をして学生は再びまくし立てる。
    「じゃあ、心理学とはなんですか。私は外科専攻です。そもそもクランケの心理を読む前に、目の前の患部を治癒するのが医師の役割です。心理学など、そもそも学習する勝ちもないのです!」

     教授は首を横に振った。
    「いいや、心理学にも価値はあるよ」
     当然学生は怒り心頭だ。
    「どんな価値があると言うんですか! どんな!」

     教授はいきがる学生に背中を見せつけながら言う。
    「君みたいな無礼な若者でも、愛すべき聴講生なんだと、自分に言い聞かせるためだ」

     我が家での存在価値を喪失気味だったおじいちゃん。
     いつか見てろ、誰しもが自分のことを「ボケ老人」とは言わせぬようにしてやる。
     
     おじいちゃんは奮起した。
     ニンテンドーDSとやらを買い求め、脳力とやらを鍛えなおすことにした。
     なかなか手に入らないと言うそれらのアイテムを、老体に鞭打って電気街をかけずりまわり、なんとか手に入れた。

    「どうじゃい、わしも今日からこれで、脳力を鍛えて、若さを取り戻すぞい!」
     電気店の紙袋を見せつけながら、その日の夕食時に、おじいちゃんは声高らかに宣言した。
     
     家族は優しかった。
     「それで3個目よ、おじいちゃん」とは、もはやいえる雰囲気ではなかったから。

     
     たそがれイリー@管理人です。

     旧年中のご愛顧ありがとうございました。
     ホームページ時代から含め、ショートショートなどの作品を10年にわたってインターネットで公開してきましたが、いろいろな意味で楽しい2008年でした。
     よき節目を迎え、無事に終えることが出来ることをありがたく思っています。

     2009年も今まで以上に切れ味のよいオチがあるショートショートなどをお届けしたいと思います。
     今後ともご愛顧賜りますようお願い申し上げます。



     年末年始は12月30日~1月5日の間、ネット休暇を頂戴します。
     よき充電を取り、新たな作品執筆に取り組みたいと思います。
     みなさまも、よき年末年始をお過ごしください。

     神はじっくりとその化け物を見つめた。
     半人半猿。そう言うにふさわしい、荒々しい生きものが眼前にいた。
    「俺は俺のできることをしたまでよ。困ってる人を助けるってのが、俺のポリシーでね」
     神に向かってそう言ってのける生きもの。
     その猿は、名を孫悟空と名乗った。

     神は孫悟空に言った。
     このご時世、自分のことしか考えない人間どもより、おぬしの方が心清らかである。褒美をやろう、と。
     悟空はとびっきりの笑顔で神に言い放った。
    「キントウンが欲しい」

     おやすいご用だ。
     神は悟空の目の前に、金色の雲を導き、指1つでそれを制止させた。
     さあ、筋斗雲だ、受け取るがいい。
     神は右手を軽くさしだし、悟空に雲を授ける。

     しかし、悟空の反応は違った。
     頭の上から湯気をたたせながら、烈火の如く起こった。
    「何聞いてたんだ! 俺は金と運が欲しいと言ったのに!」

    「もう死にたいんです」
     電話の向こうで、女性は叫ぶように言った。

     相談員は話しはじめた。
     このボランティアをはじめてまだ一週間であること。
     過去にこの『悩み事相談所』で救われたこと。
     そして、どんな悩みでも、話して聞いてもらえば、道は開けるということ。

    「本当に、そうかしら」

     女性の言葉に、相談員は”ええ”と強く言い切った。
     そして、大丈夫だから…悩みを話してごらんなさいと、付け加えた。

     女性はしばし沈黙した。
     しかし、意を決したかのように重い口を開いた。

    「神様やってるんだけど…人間ども、少ない賽銭でむちゃくちゃな要求をしてくるの。聞いててうんざりして…神様やめちゃうことできないから、死ぬしかないなあって…」

    「本当は、死にたくなかったんでやんしょ?」
     僕は声のする方向を振り向いた。
    「こっちこっち、旦那。私ですよ、私」
     声の先には、とっぷりと日の暮れた樹海の中で、ぼんやりと薄白く輝く影。
     これがいわゆる、幽霊という奴か。僕は妙に冷静になってしまった。
    「ほら図星だ、本当は死ぬ気なんかなくて、誰かに止めて欲しいなぁとか思いつつ、遺書とかメールとか書き残してきたけど、誰も相手にしてくれなくて、仕方なく樹海に来てみて、とりあえず死ぬために来ましたってふりをしてだねぇ・・・」

     お前の言うとおりだよ。
     迷ったんだよ。結果的にな。
     幽霊に向かって、そこらにあった木切れを投げつけながら、僕は叫んだ。
    「叫ぶ元気があるなら、大いに結構。でも旦那、さっきから旦那の動きを見せていただいてるとね、明らかに・・・」
     それもわかってるの。同じ所を堂々めぐりだって言いたいんでしょ?
     いいんだよ別に。僕の人生、そんなもんだし。
    「まあまあ、そんなに投げやりにならないで。旦那がこのまま死んじゃうって、100%決まった訳じゃないんだし」
     
     幽霊に同情されるほど、落ちぶれてないやい。
     そう吐き捨てると、僕は再び歩き始めた。
     タバコの空箱を取り出し、中からライターを取り出す。その明かりを頼りに歩き始める。
     死にたくない、死にたくない。そう思いながら。

     あれから3日・・・いや、それぐらい経ったのだろうかな、と思う。
     携帯電話の充電も切れて、日が昇って日が沈んで、その回数しかわからなくなった。だから3日ぐらいかなって思う。
     僕は樹海のこけの上に伏せ、動く気力を失っていた。
    「旦那、久しぶりで」
     あの時の幽霊だ。結局、3日かかってまた戻ってきてしまった。
    「今日はこの前のような話じゃござんせん。ほら、隣に死神さんが御用があるって・・・」
    「ども、死神です。そろそろ寿命がつきておられるようなので、お命をお預かりに来させていただきましたよ・・・」
     その言葉をはっきりと耳にした後、僕の意識は永遠にとぎれた。

    「本当は、死にたくなかったんでやんしょ?」
    「そうそう、本当は、死にたくなかったんでしょ、君」
    「なんですか、あなた達・・・ゆ、幽霊?」
    「ま、そんなところですけど・・・もしかして君、本当は死ぬ気なんかなくて、誰かに止めて欲しいなぁとか思いつつ、遺書とかメールとか書き残してきたけど、誰も相手にしてくれなくて、仕方なく樹海に来てみて、とりあえず死ぬために来ましたってふりをしてだねぇ・・・」
     こうして僕は、いつものように人間たちにお節介をはじめるのだ・・・

    「お名前は」
    「田口善之助と申します。56歳です。東大の経済学部を出まして・・・」
    「ああ、学歴は結構です。履歴書でわかりますから。職歴を教えてください」
    「は、はい。大学を出まして、それから語学堪能だと言うことで、海外の取引の多い伊東商事へ入社しまして、海外への赴任も多数こなしました」
    「で、このたびはリストラにあわれたと・・・」
    「いえ、管理職の立場として、部下にやめろと言うのは言いづらいものです。ですから年齢の事もありますので、私が自らやめることにしたのです」
    「・・・わかりました。それでは、我が社の業務内容等は、既にご理解いただいているとは思いますが・・・海外との取引もありますし、国内外の様々な企業と様々な取引を行う総合物流企業な訳ですが・・・」
    「承知しております」
    「ちなみに、我が社の業務内容をご覧いただいているとのことでお尋ねしますが、あなたは我が社の業務の中で、一番ご自身に適していると思われますか」
    「部長です。部長をさせてもらえれば、私の右に出る人間はいないと自負しております」

    「いよいよ連邦軍がここまで攻め込んで来たか」
    「大佐がこの期待に乗ることになるまで追い込まれてしまいました・・・」
    「いいのだよ。で、この機体はどうなってる?」
    「足がついていないのです」
    「足が?それで機動性が確保できるのか」
    「足なんて飾りです。こいつは100%の性能を発揮できるようになっております!」
    「そうか・・・しかしだ、何かが足りない」
    「何かが・・・足りないので、ありますか」

    「ドリンクホルダーとHDDナビ、あと腰痛防止クッションだな。私が快適に乗り込めないじゃないか」

    「なあ兄ちゃん、仕事なんてやってられないだろう!」
    「今日は休みです」
    「休みか! そりゃあ楽しいな! 朝からデートか、それともゴルフか?!」
    「買い物ですよ」
    「買い物か! そりゃあ豪勢なこった! せいぜい町中に小金をばら撒いてくればいい!」
    「・・・」
    「ん? どうしたね? 何か悪いことでも言ったか? 俺?」
    「ガソリン、給油してくれませんか?」
    「あ、ああ! すっかり忘れてたよ! で、えーっと・・・」
    「レギュラー満タンですよ」
    「レギュラー? 本当にレギュラーでいいのか?」
    「この車で、ハイオク?」
    「いやあ、せっかくだから、たまには奮発してハイオクでもいいんじゃないかってね」
    「とにかく、早く入れてくださいよ、レギュラー満タン!」
    「ついでに洗車とかはどうよ? ああ、タイヤの空気圧はサービスで見てやるよ」
    「ちょっと! いいかげんにしてください! いったい何やってるんですか!」

    「・・・油売ってるんだよ、ア・ブ・ラ」

    「慰謝料いただきますから」
    「あのね、慰謝料って言っても・・・あなたは僕の隣の席にいるわけで、稟議をまわしても僕からあなたに回って係長にいくわけでしょ、結果的にあなたのほうを振り向くじゃないですか。それを“目がいやらしい”とか言われて、挙句の果てには慰謝料ですか?」
    「あなたは見てないつもりでも、私は見られているって感じてるんです。それもいやらしく!」
    「わかりましたよ、そんなにご立腹なら、慰謝料払いますよ」
    「え? いきなりそんな札束を! って、なんですかこれ、ただの新聞紙の束じゃないですか!」
    「見られたつもりなんだから、慰謝料ももらったつもりになっててください。あなたならできるでしょ?」

     いつもお見かけしていますよ。
     こうしてお会いできるのも何かの縁です。
     そう言って、目尻のシワを笑顔でゆるませながら、老紳士は私の隣に腰掛けた。
     そして、私が追加しようとしていた熱燗を、”ここは私が”と制し、もう1本自分のために追加した。

     熱燗2本と猪口2つ。
     それに、炙られたイカと、ホッケの開き。
     それらを食し、また酒をあおりながら、私は老紳士と語らいを始めた。
     語らってみると、私とこの老紳士は、もう数十年にわたって・・・それこそ、いつも乗り降りするあの駅ができた頃から、顔を見かける間柄だったらしい。よくまあ記憶力がそこまであるものだと関心もしたが、同じ電車にこの老紳士が乗り合わせていたのかな・・・と思い出そうとしたが、酒の周りがほどよくきており、明確にこの老紳士との接点を見いだすことができなかった。

     老紳士は落ち着いた口調で私に言った。
     何十年、毎朝毎晩、同じ仕事を続けてきた話。
     そして、人間のような扱いをされていないのに、人間以上の仕事を求められ、嫌気がさしている話。
     あとは専門用語が出てきて、今の私にはちんぷんかんぷんだったのだが、老紳士が最後に語った言葉・・・”たまにはさぼったって、誰も文句いいやしませんよね”・・・その言葉に、私は老紳士の肩を幾度となく叩きながら同調した。

     あなたと語らえて良かった・・・いやあ、神は私のような者にも、こういう機会を与えてくれるんですね・・・今日はいい夜でした。ありがとう。
     そう言いながら、カウンターに1万円を置いて、静かに立ち去る老紳士。
     それは悪い。そう思って後を追った私は暖簾をくぐり、寒風吹きすさぶ路上に飛び出したが、既に老紳士の姿は見えなかった。
     
     翌朝の朝。
     私は少し早めに駅の改札口に向かった。
     老紳士を見つけて、昨晩の礼と、1万円を返すつもりで。
     駅に着くと、改札口付近がごった返していた。
    「自動改札のトラブルだってよ」
     私が聞くまでもなく、数人のサラリーマンが口々にトラブルの内容を伝えてくれる。
     
     この人混みに、老紳士がいるかもしれない。
     私は人混みを搔き分け、改札口に近い方へ向かった。
     しかし、目指した先には、苛立つサラリーマンと学生、それに、トラブルらしい電子音を発して止まっている自動改札機しかなかった。
      
     ”たまにはいいでしょう、ねえ、関口さん”

     電子音が、一瞬そう聞こえたのは、私だけのようだった。

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    HN:
    たそがれイリー
    年齢:
    50
    性別:
    男性
    誕生日:
    1975/07/16
    ▼ 最新TB
    ▼ 最新CM
    [04/29 hikaku]
    [03/13 ごま]
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