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2008.7.12開設。 ショートショートを中心として、たそがれイリーが創作した文芸作品をご覧いただけるサイトです。 できれば毎日作品を掲載したいと思ってます。これからも創作意欲を刺激しながら書き綴って参ります。今後ともぜひご愛顧ください。

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     日本代表、次はアウェー戦か。
     勝てっこない、負ける要素ばっかりだと・・・ええい、何を言ってるんだ!
     アウェーだろうがホームだろうが、ベストを尽くして闘えって・・・アウェーで試合するのはわかってることだろうに。
     だったらさ、その場所の暑さに慣れるとか、栄養補給対策をするとか、とにかくできることがあるだろうに。

    「マスオくん、テレビ変えてもいいか。ワシは歌番組がいいな」

     あ、ああ・・・すみません、お父さん。
     チャンネル・・・すぐに変えますから。

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    「僕なんかで、いいんですか?」
    「そうです。私なんかで、いいんでしょうか」
    「2人とも、どうしてそんなに自信なさげなことを言うのかな。私は、君たちなら大丈夫だと思っているよ。いや、思っているんじゃない、絶対大丈夫だよ」
    「でも、保証人だなんて・・・」
    「それも、いきなりこんな役を私が承けるなんて・・・」
    「だからさ、この役はね、君たちから始まって、君たちが健康に暮らしていてくれること、それが前提なんだよ。自分に、周りの人々に、優しく暮らしていてくれれば、大丈夫さ」
    「そうですかね」
    「・・・やっぱり、自信ないですね」
    「まあまあ、時間がない。ここにサインをしてもらおうかな。そしたら、早速がんばってもらおうかな」
    「わかりました」
    「そこまでおっしゃるのなら、頑張ってみます!」
    「肩の力を抜いてね。時間もいっぱいあるし。マイペースでやってくれればいいんだよ」

     地球上の、どこかの病院。
     男と女の、一卵性双生児が産声を上げた。

     その有様を、一枚の契約書を握りしめたまま、神様は天の上から見つめていた。
    「地球の将来を、君たちに保証してもらうよ。私は、いつでも君たちを見守っているからね!」

     教頭がいつになく熱弁をふるう朝礼。
     校長が退職する今春、次は私だと言わんばかりにアピールをする姿は、学生たちに胡散臭く見えている。

     教頭はさらに熱弁を続ける。
    「というわけで、みなさんは高校生なのです。勉学のためにここに集っているのです…その学舎の尊厳を著しく傷つける行為…我が校では、断じてこのような行為を許しません!」
     
     壇上の黒板に「売春」「援助交際」「薬物」の3文字が躍っている。
     威勢良く壇上を降りる教頭は確信していた。
     ここまで私が熱弁をふるったのだ。生徒たちにはきっと何かが伝わっているはずだ。

    「あれ、なんて読むんかなぁ」
    「ウリシュン?」
    「違うわよ、ウリハルよ、ウ、リ、ハ、ル!」

    「この度はご出産、おめでとうございます」
    「いえいえ、ありがとうございます。先生方や、皆様方のお掲げです」
    「早速なんですが、これをお持ちしました」
    「やけに…分厚いですね」
    「この中には、育児マニュアル、学資保険マニュアル、生命保険マニュアル、損害保険マニュアル、進学塾ガイド、提携私立幼稚園・小学校・中学校・高校・大学の各ガイドブック、就職必須アイテムセレクション、面接で勝つ!就活マニュアル…とりあえず、22歳までお役に立てるよう、様々な資料をご用意しました」
    「でも、私の子は昨日生まれたばっかりですよ」
    「いえいえ。特にご長男ともなれば、これからのお家を背負われる存在です。今からお考えになられても、決して遅くはありませんよ。むしろ、早めの勝負が肝心ですよ」
    「本当にここ、病院ですよね」
    「ええ。しかし…最近経営方針を変えましてね、多角経営…強いて言えば、みなさんの人生の様々なシーンを応援しようと言うことで、幼稚園から大学、それに学習塾、保険会社、銀行までを一同に経営する人生支援型多角経営をはじめたのですよ」
    「それは壮大な」
    「あ、時間がありませんので、また資料の内容についてお尋ねがありましたら、私にお声掛けください」
    「やけにお忙しそうですね。どちらへ?」
    「隣のホールです。昨日が友引だったので、今日は多いんです、お葬式」

     ケンジとヒロミが付き合ってるって聞いた。
     なんでも、仲むつまじく、ユニクロでジャケット選んでたって。
     それを見たって、ヤスコも私に話してくるって、なんだかムカつく。
     だって、私がケンジのこと好きだって、知ってるはずなのに。

     でもさぁ、考えてみたんだ。
     付き合ってるって、誰が決めたんだろ。
     例えば、偶然ユニクロで出くわして…あのアピール上手なヒロミが、ケンジにすりよってさ。
     ”あー、それなら選んであげるよぉ”とかいいながらさ、言い寄っちゃって。
     ケンジは優しいから、断りきれなかったんだよね、きっと。
     そうだよ。付き合ってるって、どういう基準なんだって、そもそも。
     私だってさ、目の前でケンジとヒロミがキスでもしてたら納得するけどさ。
     いや、そのキスですら…ヒロミが強引に唇を奪っただけかもしれないし。

     なんだか、ジコチューだね、私。
     そうなんだ、ジコチューなんだ、私。
     今までそうじゃないって思ってたけど、案外私って、ジコチューなんだ。
     でもいいじゃん。みんなそうでしょ、今時の女子高生って?
     自分がかわいけれりゃいいんじゃない。お互いそう思ってるだけなら、誰も傷つかないし。

     でも、今、思った。
     カレシとか言う前に。
     もっと大事な存在、忘れてるって。

    「ついに100万円か」
    「ああ、ついに」
     兄は最後の1枚…その諭吉を、真紅の貯金箱に挿入した。

     ピー。
     ピー。
     ピー。

     貯金箱から数回電子音が鳴ると、続けてファンファーレが鳴り響く。
     その後、白い煙を立ててクラッカーが数回鳴り響く。
     
     ガチャン。
     黄金のボックスが姿を現し、そこには無数の諭吉が積み重なっていた。
    「やったな兄貴。ついに100万円だ」
    「そうだな弟。幾度となくこじ開けようとしたが…すごく強固に作られている貯金箱だった。何をやっても壊れなかったな」
    「だが兄貴、そのおかげでこうして今、100万円を目の前に拝むことができたんだ」
    「そうだな弟。さて、そろそろ行くか」
    「行く? さてはこの100万円、預けにでもいくつもりか?」

    「こいつに諭吉を喰わせるために、給料を前借りしていたんだ。利子も含めて、80万返しておかないとな」

     9人でかかっても勝てない。
     野球を国技としていた某国は悩んだ。
     そして”勝てぬなら勝てるようにルールを改正すればいい”と気づき、露骨なルール改正を行った。

     まず、バットとボールを「道具で不正が起こる」として排除した。
     9人では優秀な選手を多数登場させられないので、11人にした。
     ピッチャーを設けると1人で試合を支配してしまうので、みんなが試合に参加できるよう、フィールドを広げた。
     さらに、肩の良し悪しで得点が左右されぬよう、手を使ってプレーすることを禁じた。
     こうして”サッカー”と言う競技ができた。

     しかし、サッカーとなっても某国は世界の頂点に立てなかった。
     ボールが小さくて扱いづらいということで、ボールを巨大化した。
     そんなボールは蹴れないということで、やっぱり手を使ってもよいこととした。
     それでは、ボールがゴールに入りやすくなってしまうので、ゴールを小さくし、空中に置いた。
     こうして”バスケットボール”と言う競技ができた。

     それでも某国は世界の頂点に立てなかった。
     ボールがあるからいけないのだと、ボールそのものを廃止した。
     人と人が真っ向対決する仕組みをとり、そのためのフィールドをかなりせばめた。
     誰の力を借りるでもなく、腕力と体力で勝敗が決する新たなゲームを生み出したのだ。
     こうして”柔道”と言う競技ができた。

     それでも某国は世界の頂点に立てなかった。
     柔道という競技をルール変更することを、今必死になって考えているところだ。

     胴着があるから襟をつかまれるのだ…
     胴着など脱いで、裸で試合をすればいい…
     そうだ、ふんどしを着用することにすれば…

    「…と言うお願いなんだが」
    「…信じられません」
    「何がだね。最近は、そういうの…簡単な場合だってあるんだろ? 別に首をかしげること無いじゃないか」
    「課長、最低です!」
    「な、何をいきなり!」
    「それってパワハラです!おまけに、セクハラですし!」
    「??」
    「とにかく、そんな横暴な命令は聞けません!そうだ、早速総務部に通報します!」
    「ちょ、ちょっと待て、私はだな…」
    「確かに言われたんですよ!何が”キスして”ですか!いやらしぃ!」

    「…”機種指定”と言っただけだが」

    「ただいま」
    「…おかえり、なさい」
    「今日も踏んだりけったりだったよ」
    「…なに、が?」
    「まずは朝だ、行きつけのサテンのモーニングセットの値段がいきなり上がっててな、なんでも国産原料のパンに切り替えたからだそうだ」
    「…」
    「昼だってそうだ。白身フライ定食が急に200円も値上がりしててな。冷凍食品は信用なら無いんだとさ」
    「…」
    「そして帰りがけ。いきなりカッターのボタンが2つもはじけ飛んだよ。やっぱり外国製の安いシャツじゃだめなんだろうな」
    「…」
    「でも考えてみろ、俺みたいな安月給の男が、国産だ安全だと選べるだけの余裕があるかって。もちろんそんなのあるわけないさ…どんなに身体を害しても、ボタンがはじけ飛んでも、中国製万歳!ってことになるじゃないか…お前も、そう思うだろ?」

    「…ワタシモヨメニキテ、ハントシ…ダケド…ワタシノクニ…チュウゴク、イイトコロネ」

    「大統領、お呼びですか」
    「ああ副大統領、忙しいのにすまない」
    「肩書きは結構です。いつものように、いや、かつての戦友としておつきあい下さい」
    「ああわかった。じゃあケリー、今回の状況はだいたいわかっているな」
    「ええ、エイリアンの地球侵略計画。まずは我が国を先制攻撃しようとするでしょうね」
    「さすが元軍人だ。いくつもの修羅場をにげ…、いや、生き抜いてきただけあるな」
    「要するに、防衛計画を作れと言うことですね」
    「ああそうだ。我々も、この国も、生きるためには、君の力が必要だ」
    「わかりました。早速やってみます」

    「お呼びですか、大統領」
    「ああ悪いね、補佐官」
    「先ほどの仕事より、重要な案件とお聞きしましたが」
    「君の仕事に、地球の未来がかかってるんだ」
    「どんなことでしょう?」
    「ケリー、いや副大統領のいいところを見つけてきてくれ。あいつが本当に使い物にならなかったら、早く首をすげ替えないと、私も、この国も、地球も滅びてしまう」

    「おすすめのサプリメントが、あるんです」
     ただし、少々値が、張りますよ。薬局の店主は片手で5を表現すると、店の奥に消えていった。
     数分後、1パック1包装となっているサプリメントを、惜しげもなく破り始める店主。
    「お客さん、まだ買う気になっておられないって言うんでしょ。ご心配なく、きっと買いたくなります」
     だって、この私が、こんなに痩せたんですからね。
     店主に言われるがまま、その指の指し示す方向を見ると、まるで国技館の横綱の全体画のよう男が、ボタンのはち切れそうな白衣を身にまとっている。
    「半年前の私ですよ。あれから・・・そうですねぇ、25kg、いや、30はいってるかもしれませんねぇ」
     改めて、カウンター越しの店主と、国技館の全体画を、見比べてみる。
    「効果がなかったら返品も返金も受け付けますよ。10日間、いや、2週間試してみてください。そのスラックス、2サイズはダウンできますよ」
     ただし、副作用があるんで、使用上の注意をよく守ってくださいね。店主は童のごとく微笑んだ。
     
     私は小脇に少々大きめの箱を抱え、帰宅した。
     出迎えに出て来た妻に訳を話すと、”また?”と言う表情を浮かべ、失笑して台所に消えていった。
     まあいい、今度こそは、なんとかしてやるさ。箱の中から、注意書きの書かれた紙を取りだし、私は読みふけった。

    「お客さん、返金・・・じゃなさそうですね」
     2週間後、再び薬局を訪れた私は、自身が15kg減量できたこと、友人のためにあのサプリを買い求めに来たことを伝えた。
     店主は再び、あの時のように店の奥に姿を消すと、サプリメントの箱を3つ、1人で重そうに抱え、再び現れる。
    「お友達の分ですか。ああ、くれぐれも副作用、ちゃんと理解してもらってくださいよ。そう言うサプリなんですから」
     ああ、わかっているさ。私は渇いた喉を鳴らして笑った。

     服用して1時間以内に、10km以上のジョギングと、各30回の腹筋、背筋、腕立て伏せ。
     これさえやっておけば、副作用は出ないんだろう。ちゃんと説明しておくよ。
     私は再び渇いた喉を鳴らして、先ほどより大きな声で笑った。

    「以前から申し上げてた、そういうつもりだったんですね…」
     聴診器を上腹部から下腹部に当て、ついでにと言わんばかりに、医師は僕を丸椅子に乗せてぐるりと回す。

    「食べるのは大いに結構、だけどね…」
     承知しています。
     食べる時には、賞味期限とか…食い合わせとか…よく考えれば、良いんですよね。
     僕は教科書どおり答えたつもりだった。
    「そうね。それも前から私は申し上げてるつもりなんだけどね…一言一句、変わらずね」
     医師は再び僕をくるりと回し、耳から聴診器をはずすと、見ただけではわからないカルテに、ドイツ語でなにやら書き始める。

    「いつもの薬、2週間分出しておきましょう…それとね」
     くれぐれも、暴飲暴食はやめなさい。このままだと、君、死んじゃうよ。
     牛乳瓶の底ぐらい太いレンズの奥で、医師の目がギラリと輝いた。
    「わかってるつもりなんですよ」
    「わかってるなら、きっちり自己管理をしなさい。つもりじゃ、困るんだよね」

     席を立ち、僕は診察室を後にする。
     帰り際に、医師に小さく会釈をする。
    「わかってますけど、人間たちにも何か言ってくださいよ。もう少し、いい夢を見ろって…銭とか女とか名誉とか…汚い夢ばっかりで、困ってるんですよ」
     医師にに言ったってしょうがない。でも、言わずにはいられなかった。

    「仕方が無いじゃないか…君は、バクなんだから」
     医師の一言に、僕の目から一筋の涙が流れ始め、止まらなくなった。

     駅を降りると、そこには暖かな静寂が待っていた。
     駅前のたばこ屋は、あの日と変わりなく、その場所にたたずんでいた。
     タスポなんて導入されなければ、あのおばあちゃんがいたカウンターも、自販機に隠されてしまうことはなかっただろう……まあ、あのおばあちゃんだって高齢だったんだ、きっと天国でいつものようにひなたぼっこをしてるんだろう……

     私は息子の手を取り、家とは違う方向へ歩いた。
     大きなラクダの絵が描いてある、そんな滑り台が見えた。
     私が息子ぐらいの年の頃、寄付金とかを募って作られたらしい。
     確か、高学年のお姉ちゃんたちが、学校の行きがけに、そう教えてくれた。
     息子が滑り台に乗ってみたそうにしていたが、大人のよく使う「またあとで」の言い訳で、お預けとなった。少々不機嫌になる息子。

     しばらく歩くと、河川敷に出た。
     コスモスが手を振るかのように風に揺れ、心地よさそうになびいた。
     鉄橋の上を、ガタンゴトンとリズムを刻みながら、2両の列車が通り過ぎていった。
     私が学生だった頃から、ずっとあの蜜柑色の列車は走っていた。
     もちろん、今日私たちが乗ってきたのも、あの列車。
     川面に映る列車と、山々、そしてコスモス。
     時は15年前のあの日と、何ら変わった事はないように思えた。

    「お腹すいたよ、ママ」

     息子が言った。
     ”もう少しで家に着くからね”と、私は息子に優しく語りかけた。
     そして、息子と1つだけ約束をした。

    「お婆ちゃんにはあったことがあるけど、おじいちゃんには初めて会うんだよ。だから、いつもよりお利口にしていないと、だめだよ」

     息子は大きく頷くと、私の右手を、いつもより力強く握りしめた。


     
     私があの先輩、いや夫と故郷を飛び出してから、はや15年。
     小学生になった息子を連れ、私は久々に、実家へ向かう。
     


     その時、止まっていた時は、再び動き出すのかもしれない。

    「こいつ!こいつ!」
     俺は懸命に前田を呪った。
     数え上げたらきりがないのだが、前田が俺にしてきたこと・・・ねたみ、告げ口、顧客のぶんどり・・・とにかく、俺の仕事、いや人生のすべてに対して、アイツは俺にとって恨むべき、そして呪うべき存在なのだ。
     直接、前田に文句の1つでも言えばいいじゃないかと言うかもしれない。だけど文句を言えば問題が解決するわけではない。問題が解決しても、俺の恨みは消えることはない。
    「死ね!死ね!」
     俺は頭の中にもやもやした恨みを吹きはらすように、金槌を強く握りしめ、そしてわら人形に向かって何度も振り下ろした。

     それにしても、なかなか効果がないな。
     昔からの言われどおり、前田の頭髪を織り込んだわら人形を、毎日決まった時間に、家の裏山にある小さな神社に置いて、精一杯の恨みを込めて痛打しているのに。
     まあいい。今日はこれくらいにしておこう・・・最近帰りが遅いなと、妻が気にしていたからな。

     俺は神社の参道を足早に降りた。
     降りきって住宅街の道路に降りたとき、妻に出くわした。
    「おい、お前」
    「あ、あなた、お帰りなさい。どうしたの、神社から?」
    「ああ、なんでもないよ、なんでも・・・それにしても、おまえこそ、そんなサンダル履きで、どうしたの?」
    「ううん、なんでもないの・・・あなたが帰ってきそうだったっから・・・迎えに来ただけ、そう、迎えに来ただけ」
    「そうなの・・・ありがとう」
    「どういたしまして」
     俺たちは何気ない夫婦の会話をとりあえず済ませ、家路に向かって歩き始めた。

     だけど、俺は想像もしなかった。
     妻の手から下げられた袋の中に、小さなわら人形が隠れていることなど。

     今日もオカンと喧嘩した。

     バイトばっかり行って。
     単位はちゃんと取れてるの。
     来年は就活でしょ。
     その前に。
     あんた、将来ちゃんと考えてるの?

     わかってるよ。
     わかんないから、もがいてるんじゃん。
     そうだよ、もがいてるんだよ。
     もがいてるって、わかってよ。
     それもわかんないのに、怒るだけ。
     そんなの、親じゃなくだって、誰でも出来るじゃん。
     
     でも、謝らないと。
     なんだか、気分が悪い。
     今日一日、こんな気持ちでいるの、イヤだよ。

     謝り方。
     誰か教えてよ。
     単位よりも、就職よりも、夢よりも。
     謝り方、誰か教えてよ。

     ん?
     なによ。
     列車遅れてるの? マジで?
     今日のエロ教授の講義、出ないと単位ヤバイのに!
     何のための列車だよ! バカ!
     ここからどうやって、大学行けばいいんだよ!
     
     『ご迷惑をおかけいたしますが、復旧に全力を挙げておりますので、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます』

     達筆だね。
     駅長さんが、本当に書いてるのかな。
     それとも、別の駅員?
     どっちにせよ、すっごく上手な字。
     上手って言うか、思いがこもってるよね…

     そっか。
     そういうことなんだね。
     わかったよ。何かが。少しだけど。

     遅れてもいいや。
     遅れは、取り戻せるよね。
     それ以上に、取り戻せないものがあるんだから。

     達筆じゃないけど、今日は書いてみよう。
     引き出しの中に、便箋があったと思うから。
     まだ、間に合うよね。
     きっと。

    「母親殺しは重罪だぞ」
    「それは弁護士からも聞いています。覚悟は出来てますよ」
    「どういう覚悟だ。人を5人も殺しておいて、覚悟も何もあるものか。覚悟の前に、することがあるだろう」
    「反省ですか? 謝罪ですか?」
    「そうとも言う。わかってるんじゃないか。まあ・・・お前を産んでくれた母親と・・・あと・・・」
    「その母親の後で里子に出された先の、継母でしょ」
    「その母親の後で、お前は養子に出されて・・・」
    「ええ。そこでも義母がいますね。その義母が離婚して、岐阜の元に引き取られた僕は・・・」
    「その義父が再婚するたびに、2人の継母に出会った。その母親たちを、すべて殺した。それも1週間のうちに、惨殺した」
    「・・・」
    「どうだ。お前が謝罪するなら、死刑だ。死んで天国で謝罪しろ。それしか方法がない」
    「・・・忘れてましたよ」
    「何だ? 命乞いでもしたいのか?」
    「違いますよ。僕はね、代理母が産んだ子供なんですよ。だから、本当の母親を殺すのを忘れてました。後悔して死にきれないですよ・・・まあ、とりあえず無期懲役を狙いますよ。完全黙秘と言うことでお願いします」

     近未来になり、愛着の生まれたペットをロボット化して、半永久的に飼う試みが行われたことは、誰もが知っている。
     その後、ロボット開発技術は発展し、既存の人物をロボット化したり、あるいはロボットを一から作り出すこともできるようになった。
     もちろん、その恩恵を受けているのは富裕層だけなのだが。
     そして、街中にはブランドショップのごとく「ロボットショップ」が見られるようになった。

     今日もロボットショップ「ルック・ライク」に客がやってきた。
     初老同士の夫婦が私の店に来たのは、夕立が止みかけた夕暮れ前の時だった。
    「息子を作ってください」
     写真を差し出す老紳士は、私が聞く前にぼそりぼそりと息子について語り始める。
    「20年前、この写真は成人式の時に撮った写真です。その後、息子はいなくなってしまいました」
    「私たちは確かに富に恵まれていました。しかし、心までは裕福ではなかったのですね」
    「そう、妻の言うとおりです。この歳になって、ようやく得がたい者の存在に気がついたのです」
    「夫の言うとおりです。ですから、今回息子を作っていただきたいのです」
     私は食傷気味に老夫婦の話を聞いていた。
     この手の客が圧倒的に多いため、もうなんだか歌舞伎の口上のように、同じことを客が繰り返し語るのに飽きていたのだ。
     そう、家を飛び出した息子や娘を作ってくれ、やっぱり金より心の豊かさだ、と。
     そういうくせに、息子や娘を金を積み上げて、できる限り再現してくれ、と懇願する。
    「性格まですべて、息子にしていただきたい」
     そう、今日の客も同じことを懇願した。
    「お客様、性格まで再現しろ、とおっしゃるのですね」
     老夫婦は私の問いかけに、瞳から涙を流しながら頷いた。
     私は、老夫婦から写真やら学校自体の通信簿やら、彼らの息子のありとあらゆる資料を受け取った。
     そして、念を押すように問いかけた。
    「いいですか、性格までも再現すれば、いいのですね」
     老夫婦は、私の問いかけに「くどい」と、目で訴えるのだった。
    「わかりました…でも、これだけはお話しておきます。…100%息子さんになることは無いですよ」
    「それは承知しています」
    「そうですね…あえて申し上げるなら、息子さん「風」のロボットが出来上がるのだ、と。そうお考えいただきたい」
    「わかりました」
     老夫婦は、革鞄に詰め込んだ札束をいくつも積み上げながら、くれぐれも息子に近づけて欲しい、と何度も訴えるのだった。

     あの老夫婦が来てから3ヵ月後。
     再び彼らがやってきた。
     もちろん、私には予想がついていたのだが。
     そして、彼らが怒りを隠そうとせずにこの店にやってくることも、私は知っていた。
    「息子、いやロボットはいなくなってしまいました」
    「どうしてこんなことになるのですか。大枚をはたいたと言うのに。責任を取っていただきますよ」
     私は毅然とした態度で言い放った。
    「いいですか。性格まで一緒にしてくれとおっしゃったのはあなた方ですよ。性格まで一緒にしたら、こうなるのはわかってるじゃないですか」
    「??」
    「実際の息子さんが、あなた方の有様に失望して出て行かれたのですから、性格も同じであるロボットがいなくなってしまうのは、当たり前でしょ」
    「ああ…」
    「おわかりですか。ゆえにお金では買えぬものがある、と言う世間の名文句もあるわけですよ」
    「…あなた」
    「ああ…」
     私の言葉に、老夫婦はうなだれ、そして妻は店の応接ソファーに深々と腰を掛け、放心した表情を浮かべた。

    「ちょっと、待ってくれ!」
     老紳士は私の顔を見つめ、叫ぶようにこう言った。
    「ロボット運用法で…法律で、製造主はロボットの所在を常に把握する義務があるはずだ!だから、君はロボットの居場所を知ってるはずだぞ」
    「…」
    「さあ、今すぐ、ロボットがどこにいるか、教えてくれたまえ」
     さすが、財をなす人間はこのようなことに気づくのも早いものだ。
     でも、私は安心していた。
     私の本当の商売は、ここからなのだから。
     なるべく平静を装い、少しでも悪人の表情にならぬよう、私は老紳士に語りかけた。
    「いいですか。ロボット運用法には、あなたがおっしゃるとおりの義務があります。ですが、こうとも書いてあります…ロボット運用法第34条の2…製造主は、製造したロボットの所在及びロボットが所有または獲得した金銭及び各種情報について、その秘匿について責務を負う…とね」
    「それは、わかっているとも」
    「秘匿ですよ、秘匿」
     老紳士は、ありがちな展開を私の目の前で見せてくれた。
     アタッシュケースに詰め込まれた札束。それを両手でつかめるだけつかみ、私の眼前に差し出す。
     そして、この老紳士に限らず、金持ちが吐く言葉のベスト3にも入る、あの台詞を吐くのだ。
    「金なら出す!だから、教えてくれたまえ!」

     1時間後、私は5千万円でロボットの情報を売り飛ばした。
     いや、正確に言うと、ロボットの正確な位置がわかるGPS装置を、5千万円で販売したのだ。
     いやあ、これだから…ロボットショップはやめられないのだ。
     私は薄めのブラックコーヒーを入れ、カウンター越しに初冬の夕暮れを見つめながら、札束を片手にほくそ笑んだ…いつもの、癖なのだが。
    「いやだお父さん、また笑ってる」
    「なんだ久実、帰っていたのか」
    「いつものようにさ、年寄りが泣き叫んでいるから、またうまいことやったのかと思ってね」
    「ははは、そのとおりだ」
     娘は私の飲み干したコーヒーカップを下げながら、妻の口癖を真似する。
    「あなたはお金さえあれば、幸せなんですからね…まったく、これだから金の亡者はいやなの」
    「おいおい、しゃべり方まで、アイツに似てきやがって」
    「似てきやがってと言われても、私は幼心に覚えているだけなんですから」
    「ちぃ、そんなこと言うのまで、あいつに似てきやがって」
    「あなたはお金さえあれば、幸せなんですからね…まったく、これだから金の亡者はいやなの」
    「おいおい、また同じ台詞か。もうわかってるさ」
    「あなたはお金さえあれば、幸せなんですからね…まったく、これだから金の亡者はいやなの」
    「…」
    「アナタハオカネサエ…○×&’%#$”&”””&…」
     
     私は娘の前頭部を思いっきり叩いた。
     軽い金属音がして、その後脳部コンピュータの異常停止音がこだました。
     ピーピーピー、ピーピーピー。
    「最近、調子が悪いな…そろそろ、限界かな」
     娘「風」ロボットも、既に10年が経過して、至るところに故障が目立ってきた。
     そういう私も、最近では人間が話す言葉が聞き取りにくくなっている。
     最初は人間たちが悪いのだろうと思っていたのだが、どうも私の外部ソナーが老朽化してきたらしい。
     人間と言うやつももろい存在だと思っていたが、そんな奴らに作られた私まで、もろくなってしまうとはね。
     いやはや、本当に情けない話でもあるのだが。

     それはそうと、私「風」の人間は、つい10年ほど前から姿を消したのだが、いったいどこに行ってしまったのかねぇ。

    「本当は、死にたくなかったんでやんしょ?」
     僕は声のする方向を振り向いた。
    「こっちこっち、旦那。私ですよ、私」
     声の先には、とっぷりと日の暮れた樹海の中で、ぼんやりと薄白く輝く影。
     これがいわゆる、幽霊という奴か。僕は妙に冷静になってしまった。
    「ほら図星だ、本当は死ぬ気なんかなくて、誰かに止めて欲しいなぁとか思いつつ、遺書とかメールとか書き残してきたけど、誰も相手にしてくれなくて、仕方なく樹海に来てみて、とりあえず死ぬために来ましたってふりをしてだねぇ・・・」
     お前の言うとおりだよ。
     迷ったんだよ。結果的にな。
     幽霊に向かって、そこらにあった木切れを投げつけながら、僕は叫んだ。
    「叫ぶ元気があるなら、大いに結構。でも旦那、さっきから旦那の動きを見せていただいてるとね、明らかに・・・」
     それもわかってるの。同じ所を堂々めぐりだって言いたいんでしょ?
     いいんだよ別に。僕の人生、そんなもんだし。
    「まあまあ、そんなに投げやりにならないで。旦那がこのまま死んじゃうって、100%決まった訳じゃないんだし」
     
     幽霊に同情されるほど、落ちぶれてないやい。
     そう吐き捨てると、僕は再び歩き始めた。
     タバコの空箱を取り出し、中からライターを取り出す。その明かりを頼りに歩き始める。
     死にたくない、死にたくない。そう思いながら。

     あれから3日・・・いや、それぐらい経ったのだろうかな、と思う。
     携帯電話の充電も切れて、日が昇って日が沈んで、その回数しかわからなくなった。だから3日ぐらいかなって思う。
     僕は樹海のこけの上に伏せ、動く気力を失っていた。
    「旦那、久しぶりで」
     あの時の幽霊だ。結局、3日かかってまた戻ってきてしまった。
    「今日はこの前のような話じゃござんせん。ほら、隣に死神さんが御用があるって・・・」
    「ども、死神です。そろそろ寿命がつきておられるようなので、お命をお預かりに来させていただきましたよ・・・」
     その言葉をはっきりと耳にした後、僕の意識は永遠にとぎれた。

    「本当は、死にたくなかったんでやんしょ?」
    「そうそう、本当は、死にたくなかったんでしょ、君」
    「なんですか、あなた達・・・ゆ、幽霊?」
    「ま、そんなところですけど・・・もしかして君、本当は死ぬ気なんかなくて、誰かに止めて欲しいなぁとか思いつつ、遺書とかメールとか書き残してきたけど、誰も相手にしてくれなくて、仕方なく樹海に来てみて、とりあえず死ぬために来ましたってふりをしてだねぇ・・・」

     こうして僕は、いつものように人間たちにお節介をはじめるのだ・・・

    「僕は無実ですよ。あの子が乳がんじゃないかって心配してたから、相談に乗ってたんです」
    「相談? 相談の過程で、なんで君が被害者の胸を揉む必要があったのかね」
    「それは、彼女がそうしてくれと言ったからです。最初はどうしようかと思ったのですが、頼まれたので、つい」
    「彼女はそんな依頼などしていないと言っているが」
    「彼女の話、もう一度詳しく聞いてください。確認していただいたらわかります!」
    「確認したところ、彼女は”乳がんは男の人にも稀ながら見つけることがある”という話をしていた直後、君が棟を揉んできたと言っているがね」

    「ほら、言ってるじゃないですか!”揉まれながら見つける”って!」

     田舎育ちの私には、都会の猛暑が耐えられなかった。
     ある初秋の昼下がり、30度に達しようかと言う気温の中、私はビルを飛び出した。
     営業とかこつけて、涼を求めるためだ。

     幸いにも、私の会社の近くには、涼がすぐにある。
     涼と言うよりは、周りのコンクリートジャングルと比べても、かなり涼しい場所と言ったほうがいいだろう。
     もちろん、今日もその場所に出向き、近くのベンチに腰掛けて、いくつかの書類に目を通す。
     国会議事堂を目の前にして、涼しげになった私は、一人つぶやいた。

     ”永田町って所は、世間と比べて、温度差があるものだ”と。

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