忍者ブログ

2008.7.12開設。 ショートショートを中心として、たそがれイリーが創作した文芸作品をご覧いただけるサイトです。 できれば毎日作品を掲載したいと思ってます。これからも創作意欲を刺激しながら書き綴って参ります。今後ともぜひご愛顧ください。

2026 . 02||
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • ×

    [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

     あの人に嫌われたくないって?
     その気持ちはわかるけど、それじゃあ困るんじゃない?

     そうさ。
     あの人に好かれたら、あなたの好きな先輩に嫌われちゃうじゃない。
     
     でもね。
     あなたの好きな先輩と相思相愛になったら。
     あなたの良き相談相手の、中村くんが機嫌を損ねるわよ。

     なんでかって?
     中村くん、本当はあなたのこと、好きなんだもの。
     
     中村くんと付き合ってもいいって?
     それはどうかしら。
     だって、中村君のこと、あの人が気にしてるみたいよ。
     そう、あなたが嫌われたくない、あの人がね。

     どうしたらいいかって?
     簡単なことよ。
     
     あなたはあなたのままで生きたらいいのよ。
     そんなあなたのことを、好きになってくれる人がいるから。
     あなたは、そんな人たちのために、生きたらいいわ。

    PR

     俺は決心した。ヤクザ稼業から足を洗おうと。
     犯していない罪は人殺しだけ。それぐらいにしておいた方がいい。
     俺にはそう決心する理由があった。

     アイツだけは幸せにしてやりてぇ。
     そう思える女ができた。それだけのことだ。
     他人から見れば”それだけ”かもしれないが、俺にとっては命を賭けてもいい……それぐらいの女だ。

     もちろん、この稼業から足を洗うことは、並大抵のことではできない。
     オトシマエという儀式が必要だ……もちろん、それは済ませてきた。
     小指がないおかげで、ハンドルを持つ右手……いつもと感触が違った。

     マンションに帰ると、人の気配がなかった。
     いるはずのアイツが、どこの部屋にもいなかった。
     どこかに出かけているのだろうと、俺がリビングに入ると、テーブルの上に1枚のメモがあった。
     
     「いままでありがとう。探さないでください」

     アイツの書いた字だった。
     俺は呆然とし、頭の中を駆け巡る”なぜだ?”と言う問いかけに、答えを出せぬまま葛藤した。

     あれから3ヵ月後。
     俺は自分の犯した過ちに気がついた。
     
     ……運命の赤い糸って、確か小指にくくりつけられてるんだったよな……

     忘れっぽくて困ると言う男が、この病院にやってきた。
     診察を受ける直前に、保険証を忘れてきたと言う男。
     それを笑いながら語っている男に、医師は正直あきれてしまった。

    「で、今日はその忘れっぽいのをなんとかしたくて、おいでなのかな?」

     ……男は沈黙した。
     どうやら、何のために自分がここにいるのか、忘れてしまったようだ。

    「……忘れっぽいのは病気なのか、性格なのか……とにかく、それをきっちり調べましょう」

     ……男は再び沈黙した。
     どうやら自分の性格がどうなのか、忘れてしまったようだ。

    「いいでしょう。私がこれから心理テストを用意します。それの結果で、あなたの性格はわかりますから……そんなに落ち込まないで。あなたが病気なのかどうかを判断するために、性格を調べるだけなんですから」

     男は立ち上がった。
     ”もう大丈夫です!”と言い放って、診療費も払わずに病院を飛び出していった。
     あっけに取られている医師に、看護婦はつぶやいた。

    「いつものことですよ、あの人。自分が病気だってことを忘れちゃったもんで、元気になっただけですから」

    「しつこい男だったわ」
    「あら、またフラれたの?」
    「失礼ね。私がフったのよ! あんなねちねちとしつこい男って……ほんと、二度と顔も見たくないわ」

    「で、今日は何の先物取引だったの? あのセールスマン」

    「先生、私が本当の人格なんです」
    「何を言うのよ、この目狐! 先生、私が本当の人格です!」
    「先生……私がほら、本当の人格ですわよ……そうじゃなかったら、このように方をさらけ出したりはできないでしょう?」
    「先生! 私が本当の人格! そうじゃなかったら、こんな風に……見せたりできて?」
    「先生!」
    「先生!」

    「わかったわかった。君たちの言い分はわかった。だがね、私は内科医なんだ。ちょっと待っててくれ、これからもう一人の精神科医である自分に出てきてもらうから……」

     テレビの前のみなさん!
     私たちはついにあの”原住民”に遭遇することができました!
     約50年前から存在が確認され、この人類未踏の知で暮らしているあの原住民とコンタクトを取れたのは、我々が世界初です!
     
     さっそく、原住民さんにお話を聞いてみましょう。
     原住民さん、先ほどから涙を浮かべておられるようですが、今のお気持ちは?
     
    「もう、うれしくて仕方がありません。飛行機事故にあってから50年。ようやく発見してもらうことができたわけですから」

     早くこっちに飛び移ってください。その階はもう危険です。
     いくらそう言っても、男は消防士の言うことを聞かなかった。
     自らが泊まったホテルが猛火に包まれ、その火に焼かれそうになっていると言うのに。

    「わては高所恐怖症なんや! これやさかい、東京なんかくるんやなかったわ!」

     男は早口の大阪弁で、はしごを近づけるように言った。
     しかし、それができていれば”飛び移れ”などと、もとから言わない。
     消防士たちは思案した。その様子は、テレビでも映し出された。
     国民の大半が、男の境遇を気に掛け、その無事を祈っていた。

     はしごの先端まで炎に照らされるようになってきた。
     もうだめだと思った瞬間、消防士は男に向かって叫んだ。
     
     その直後だった。
     男はいままでの言動からは信じられないほど、あっけなくはしごに向かって飛び移った。
     周りの人間には事情がまったくわからなかった。消防士はガッツポーズを繰り返した。
     
     男を助け出した消防士は、さっそくカメラとマイクに囲まれた。
     あの状況で、どうやって男性をその気にさせたのですか? 質問は決まっていた。
     消防士は白く光る歯を見せ付けながら言った。

    「”阪神が優勝しましたよ”って言ったら、いつものように飛び降りてくれましたよ」

     近隣住民より通報。
     A市のホテル”恋のバカンス”301号室から火の手が上がっている。
     消防隊の出動要請あり。

     関係者より通報。
     B市のホテル”ホテルUSA”200号室から出火。
     消防隊の出動要請あり。

     通行中の自動車運転手より通報。
     C市の国道バイパス沿い、ホテル”キャッスル”から火の手が見える。
     消防隊の出動要請あり。


    「司令、今日は深夜火災が多いですね」
    「金曜の夜だからね。大人のいけない火遊びが、今日は特に多いんだろうよ」

    「先生、今なんとおっしゃいました?」
    「現実を申し上げただけです」
    「息子の病気は、手術をしても、助からないんですね!?」
    「そうじゃないですよ、助かる確立が10%……90%は助からない場合もある、と申し上げたんです」
    「そんな……死亡率が90%って、言ってるようなものじゃないですか!」
    「それはそうなんですが、10人中9人なんです。1人は助かる場合だってあるんです。確立にすれば低いかもしれませんが、私には息子さんをお助けできる、根拠があるんです!」
    「……根拠……」

    「この病気で、私が執刀した患者さんは、今までに連続9人死亡しています。あなたの息子さんは10人目なんです。確立で言えば助かる番です」

     なあ大将、聞いてくれよ!
     この前から、うちの鯛焼きを値上げしたんだ。途端に儲けが上がってね。

     どうやったのかって?
     簡単なことよ!
     餡子と小麦粉、これをほんの少しだけ減らしただけさ。
     鯛焼きを買うのに、いちいちグラムまで計って買う馬鹿はいないだろう?
     今まで1匹の鯛焼きを作ってた分量で、今じゃあ4匹焼いてるさ!
     どうだい、俺ってほんと、商売人の鏡だな!

     あ、焼き鳥できた?
     やっぱり、あんたの焼く焼き鳥はうめぇな。
     だから俺、この店ひいきにするんだよ!

     ……でもさぁ、前に比べて、肉の量が減ってるような気がするんだが。
     ……気のせいだって?
     ……ああ、酔ってるからねぇ、今日は特に。

     ギー、バタン。 

    「そこの者、お前は天国行きだ」
    「あ、ありがとうございます……閻魔大王様、生きていて何もいい事が無かったと思っておりましたが、最後の最後で、少し報われたような気が致します」
    「そう言ってもらえるとわしもありがたい……お前は一生懸命に家族のために働いておったが、妻に裏切られ、その愛人に駅のホームで突き飛ばされ、列車にはねられて死んでしまった。本来、ここの世界に来るには早すぎる男だったのだが……まあ、天国で穏やかな日々を過ごすがよい」
    「重ね重ねありがとうございます。それでは、行って参ります」

     ギー、バタン。

    「お前は地獄行きだ」
    「お待ちください、閻魔大王様! 私は悪い女にだまされ、利用されていただけなのです! どうぞ、最後のご慈悲を!」

    「ならぬ。愛人の依頼でその夫を殺そうと、駅のホームで夫を突き落とし、列車にはねさせて殺した。勢いあまってお前までホームに落ちて列車にはねられて死んでしまったようだが、なんの情状酌量もできんよ」 

     娘の彼氏と思わしき男が、我が家にやってきた。
     男をはしゃぎながら歓待した妻。お待ちしていましたとばかりに、食事の準備を始める。まるで来訪するのを知っていたように。
     いや、それ以上だろう……娘とこの男が付き合っているの……それも知っていただろう。
     娘の彼氏と一緒に夕食とは、正直面白くは無かったが、妻がどうしても言うので、同席する羽目になった。

     夕食ができるまでの間、私は男と向かい合わせになり、ソファーに座った。
     お互いに視線を合わせることもなく、なにげなくテレビを見つめていた。
     もちろん、会話するきっかけなど、あるわけも無い。

     そんな時間が30分ほど経過し、私は痺れを切らした。
     唐突に聞いた……付き合っているのか、と。

     男は一瞬凍りついたような表情を見せた。
     しかし、私の表情をいくらか確認すると、唾を飲み込むようなしぐさを見せた。
     そして、落ち着きを取り戻したような表情で、私に言った。

    「付き合っています……ただし、あなたのようなお相手がいるとは、聞いていませんでしたが」

    「狙った獲物はのがさねぇ」
     
     依頼人の前で、ぼそぼそとつぶやく。
     そんな寡黙な殺し屋は、バブルがはじけた頃、ひっそりと姿を消した。
     まっとうな生き方を望んだ殺し屋は、しなびた温泉街の一角で、愛人と一緒に小料理屋を始めた。 

     男はライフルを包丁に変え、いっぱしの料理人になった。
     小料理屋とはいえ、味にこだわるその姿は、殺し屋だった時の姿となんら変わりない。
     ただストイックに、味を追求し、客を喜ばせる。それだけなのだ。

     ……もうあの世界に、戻らなくてもいいぜ。
     ……この店をたたむと、残念に思う奴が、たくさんいそうだからな。
     カウンター越しに、かつての相棒がつぶやく。

    「習った煮物はこがさねぇ」

     男はあの頃のようにぼそぼそとつぶやき、かつての相棒の顔を見据えた。

     かわいらしい風貌のわりに、大食間。
     そんなギャップが茶の間に受けて、彼女は売れっ子になった。
     
     そんな彼女には、ただひたすら食べることが求められた。
     あるときは、通常の20倍もある超ジャンボラーメン。
     またあるときは、通常の50倍もあるショートケーキ。
     あげくの果てには、巨漢の大食いチャンピョンと勝負をさせられる始末だ。

     そんな彼女が、ついにギブアップした。
     24時間ぶっとおしのチャリティー番組で大食いに挑戦していて、最後に残った50人分相当のステーキを見て、ついに手を伸ばすことができなくなったのだ。
     視聴率は一気に上昇し、彼女の口からギブアップの理由を聞くために、マイクは彼女の眼前へ向けられた。

    「リハーサルでは食べられたんですけどねぇ、50人前!」

    ”2005ネン、2ガツ14ニチ、ジカンハ、ゴゴ6ジ。コノセッテイデヨロシイデスカ?”

     流ちょうな女性のアナウンスが聞こえると、私は何も言わず、タッチパネルのOKを指で押した。
     ”タイムスリップチュウハ、ベルトヲオツケニナリ、ディスプレイオヨビアナウンスノシジニシタガッテ、ソウサシテクダサイ…”
     友人から借りた、旧型モデルのタイムマシンだ。私のような貧乏人には、操作の仕方など知る由はない。充血した目をこすり、私はディスプレイに表示されるがまま、出発の設定をたどたどしく行う。
     設定が無事に終わると、球状のタイムマシンは、10秒ほど振動した後、静かに上空高く浮かび上がっていく。
     次第に見え始める、リニアモーターカーの都市環状線と、新東京タワーの明かりが、いつになくまぶしい。
     その景色も、”シャッター閉鎖”とアナウンスが聞こえた後、静かに閉められていくシャッターで見えなくなっていった。
     いざゆかん、40年前の東京へ。心は躍った。

     『人生快適化のために必要な過去および未来の事実を改変するための法律』が施行されて、はや2年。
     私は家庭内不和に苦しんでいた。妻と呼んでいた女…30年前に離婚はしたが、離婚してもぬぐえないものが、現実で…そして心中にもあった。
     そして、2043年…私が63歳の誕生日を迎えたその日、この法律は施行された。
     私は、躊躇することなく、過去の改変を申請した。そう、離婚しても、過去に私が犯した過ち…あの女を伴侶に選んだこと、そのために私自身、子どもたち、親族郎党、みなが金に困り、人生設計を破壊され、結果として周りの第三者まで不幸にしてしまった…その過去を、人生快適化のために変えたい。私自身のため、みんなのために。
     過去を変えると言うことは、2045年に生きる者にとって、その存在すら改変せざるを得ない。当然審査には時間がかかった。初老となった元妻の言い分も聞かねばならぬ。そして苦労して大きくなり、成人となった子どもたち、さらに様々な迷惑を掛けた親族郎党にも。裁判所は2年かけて、ようやく私の望んでいた結論を導き出してくれた。
     私の手には、今朝裁判所から発行された『改変許可書』が握られている。
     私は、この許可書に記載された範囲で、過去の事実の改変を行うことができる。時間警察隊が来たら、この許可書を見せてやれば、彼らは何も言わないだろう…この書類は、私にとって、人生の中で初めて手に入れた、水戸黄門の印籠みたいなものだ。。
     ”相部佐緒里との初めてのデートを改変し、無きこととすること”
     許可書の文言を幾度と無く読み返し、私はそのたびに頷いた。

     ”ジョウクウニトウチャクシマシタ。マニュアルソウサニヨリ、チャクリクサセテクダサイ。チャクリクゴ、ガイブヨリドアヲシメ、カモフラージュソウチヲカナラズONニシテクダサイ”
     私は近所に公園を見つける。ああ、40年前も今も、上野公園は変わらぬのだなぁ。寒空の中でも、薄着で犬の散歩をしている西郷さんを横目にみながら、ゆっくりとタイムマシンは降下する。
     その西郷さんの横には、佐緒里がいる。今か今かと、その瞬間を待っている。
     そうだ、私が待ち合わせ場所に、西郷さんの前を選んだんだ。佐緖里は上京してきたばかりで…最初に覚えたのが、上野駅。それと西鄕隆盛の銅像だったんだ…あの頃、私は、神田の出版社に勤務してたから…南からやって来たはずだ…とにかく、私自身で私を捕まえないと。
     着陸したタイムマシンは、カモフラージュボタンを押すと、透明になる。上野公園のはずれ、木々の合間でタイムマシンは透明になり、見えなくなった。
     私はワイヤレスキーを胸のポケットに入れると、久々に走り出した。南へ、南へ、ただひたすら、南へ。
     
     西郷さんの前を通り過ぎるとき、40年前の佐緒里を認めた。
     ちょっと肩に掛かるくらいの、自然な茶色の髪をしている。すれ違うとき、ほんのりとシャンプーの香りがした。
     …この女が、守銭奴になって、借金まみれになり、挙げ句の果てには、そのお金を他の男に貢いでしまうなんて。
     高知育ちの、少々田舎臭さが消えぬ佐緒里。それでも、いい女だ。ただし、風貌は。
     そんなことを考えながら、私は佐緒里の前をよたよたと走っていく一人の老人になっている。
     …いた。私だ。
     昔の私は、明日朝一で印刷所に入稿する原稿を茶封筒に持ち、佐緒里との待ち時間に遅れまいと、私の目の前を、山手線の電車のごとく、互いにすれ違おうとしている。
     今だ。私は私の目の前に立ちはだかるようにわざとよろめき、そして私の前で倒れ込む。
     昔の私は、今の私を避けきれず、私を蹴飛ばすかと言う勢いで接触する。そして今の私は、半ばオーバーに、その場でうずくまる。
    「すみません。い、急いでいたもので。大丈夫ですか?」
     昔の私は、今の私よりも謙虚な会釈をし、倒れ込んだままの私を見つめる。
     そうだ。もっと心配しろ。ここで私が「骨が折れた!救急車を呼べ!」とでも叫べば、私のことだ…周りの冷ややかな視線におどおどし、慌てて救急車を呼び、そして佐緒里を待たせたまま、待ち合わせに遅れて、嫌われて…一巻の終わり。私はとどめの言葉を吐く、そのタイミングを待った。

    「お急ぎでしょう。ここは私に任せて。どうぞ行ってください!」
     ??? 誰だ? 誰が、そんなことを言ってるんだ!
    「ま、待たんか! わ、私は…」
     昔の私は上半身を起こした私に、もう一度深々と会釈をすると、西郷さんの方へ一直線に走っていった。
     それを止めようと、届きもせぬ右手を伸ばす私。その手を別の手が掴んだ。
    「もういいよ、父さん」
     昔の私を視界から遮るように、若い男が私の目の前に、しゃがみ込んだ。
    「た、武史…」
    「姉貴から聞いたよ。どの時代に行くかわかんなかったからさ、一か八かでこの時代に来てみたら、ビンゴだ…いやあ、便利だよね。レンタルで最新鋭のタイムマシンが借りられるなんてさ」
     ちょっと高くついたけどね。右手の指と指で丸を作りながら、武史は犬歯を見せて笑った。
    「武史…父さんは…父さんはな…」
     武史は私の目を見つめ、幾度か首を横に振った。もういいんだ、いいんだよ。武史はつぶやいた。
    「だけど、父さんがあんな女と一緒にならなければ…おまえを立派な大学にも入れてやれたし、今のように、お前が夜間大学に通い、昼間に塗装工と建築現場のバイト三昧にさせたりはしなかった! おまえだけじゃない、姉さん、由希乃だって…今みたいなホステスなんかにさせることなく、なりたかった医者に、ならせてやることもできただろうに!」
     武史は私の目を見据えた。
    「確かに、一度は同意したよ。こんな改変をするってことは、今の自分が自分でなくなる可能性だって、あるわけだから。もちろん姉貴もね」
    「…武史」
    「だけどさ、やっぱり思ったんだよ…」
     今は今で、萩原昭輔の息子、萩原武史で生まれてきて、それでよかったんだってね。
     武史は私の手を取り、私をその場に立たせる。
    「タイムマシン、どこに置いたの? 帰ろうか、一緒に。俺のタイムマシン、なんだっけ、皇居だっけ、とにかく、遠いところにあるんだよ。途中まで、乗っけて行ってよ、いいだろ?」
    「武史…」
     
    「あの…」
     私を呼ぶ声が、背後から聞こえる。同時に、ハイヒールの足音が、私の背後で止まる。
    「先ほどは、連れの者がご迷惑をおかけしたそうで…申し訳ありません」
     振り向くと、そこには佐緒里がいた。傍らには、25歳の萩原昭輔が、さっきと同じように、会釈をした。
    「すみませんでした。この子を…待たせちゃってたもので。そうだ…お怪我とかされてたら、後でこちらに…」
     昔の私は、背広の内ポケットから名刺入れを取り出し、深々とお辞儀をして、私に差し出す。
    「凸凹出版の、萩原昭輔と申します。何かありましたら、こちらまで…」
    「昭輔くん、いや、彼もそう申しておりますので、今日の所はこれにてお許しいただけないでしょうか…」
     佐緒里が深々とお辞儀をした。昔の私に負けぬくらい、謙虚で深々としたお辞儀だった。

     私の背中を、武史が押す。
     許してやりなよ。いいね。そう言ってるようだった。
    「これはこれは…恐れ入ります…では…」
     昔の私から名刺を受け取る。
     その時だ、佐緒里から私に言葉が掛けられる。
    「あの、よろしければ、お名前と連絡先をいただければ…その方が、後でこちらもご挨拶に伺えますので…」
     私は武史を見つめる。武史は私と目線を合わせるのを嫌い、遠くに見える東京タワーを見つめた。
     私はポケットから許可書を取り出すと、それを両手の平でくしゃくしゃと丸めた。
    「名乗るほどのものじゃ、ありません。今日の今という時間、あなたにぶつかっただけの、それだけの老人ですよ」
     でも、お怪我などされていたのでは…本当に、大丈夫でらっしゃいますか? 佐緖里は汚れた私のスラックスを見つめながら困惑する。
    「またお会いしたとしたら、その時には、慰謝料でもいただきますよ…まあ…」
     二度とお会いすることはありませんけどね。私は乾いた喉を鳴らして、小刻みに笑った。
     25歳の萩原昭輔は、佐緖里の肩を数回叩くと、申し合わせたように、再び会釈をする。
     私と武史の返礼を見届けると、2人は背中を向け、アメ横の歓声が賑わう、厳冬の都会に消えていった。

    「さあ父さん、帰ろう。姉貴も心配してる」
     武史は私が右手の中に収めている許可書…今ではただの紙くずを、そっと奪い去り、そして”記念だから”と、丁寧に折りたたみ、自らのポケットに入れた。
    「…本当はさ、どうしても過去を変えたかったんじゃないの? でも、後悔しないよね」
     いつまでも都会の雑踏に立ちつくす私を、武史は案じた。

     いいさ。
     慰謝料は、10年後でいただくことになるんだから…
     そう言った瞬間、ビルのすきま風は、容赦なく私の背中を押し、寒々しさを余計に身に染みさせるのだった。
    「父さん…」
     さあ、帰ろう。未来へ…いや、私たちの現実へ、帰ろうじゃないか。
     私がそう言うと、武史は静かに頷いた。
     タイムマシンを置いてある、その方向へ私は歩き出す。武史も後をついてくる。
     人混みは、まるで誰かをエスコートするかのように、スペースを空け、私たちの歩む道を、そっと開いていた。

     2045年に帰った私。
     家に戻ってみると、そこには初老の佐緖里がお茶を入れて、静かに待っていた。
     由希乃が来てるわよ。今日は病院、非番だからって…おじいちゃんを待ってたのよ、煙草を買いに行くには、遅いわねって。
     なんだか訳のわからないまま、ソファーに腰掛ける私。
     その私の足下で、幼子の声がする。
    「おじいちゃんー、おかえりなさぁーい」

     額にある3つ目の目を光らせながら、男は言った。
    「私は未来人だ。お前たちの数千年後の人類だ」
    「そんなこと、信じられませんよ。タイムマシンにでも、乗ってきたとでも?」
    「そう言うことだ。いいか、お前に人類の未来を託すぞ」
    「だから、なんですか!?」
    「いいかよく聞け、お前らの代で、地球は環境が破壊され、人類は死に絶える事になるのだ。だが、実際には人類は劣悪な環境に耐え忍びながら生き延び、一部の者が私のような姿に進化して生き残り、高度な文明を構築したのだ」
    「だから、どうしろって言うんですか!」
    「その私たちでさえ、再び地球滅亡の危機に瀕しているのだ。だから、お前らが私たちのような姿になってしまわぬように、未来を改編するのだよ。だからお前に私たちの時代に怒ったすべてを話して、それをお前から全世界に広めてだな・・・」
    「ぜ、全世界? そんなの、無理ですよ・・・」
    「すべこべ言うな。お前の住む星が無くなってしまうんだぞ。形は違えども同じ人類だ、少しは協力しろ」
    「だ、だけど・・・」

    「そいつの言うとおりだ」
     新旧の人類が口論している横に、いきなりモヤシのような細くて長い、緑色の生物が立っていた。
    「なんだ、貴様は」
    「お前も未来から来たと言ったな」
    「それがどうした」
    「俺はお前のさらに数千年後から来た人類だ。俺たちの頃の地球も消滅寸前でな・・・ま、話も長くなりそうだから、俺も仲間に加えてもらうとしようか」

    「ようやく携帯電話が通じたよ……僕だ、ジェームズだ」
    「ジェームズ! 無事なの! 今どこにいるの?!」
    「ああ、お察しのとおり、君の旦那と一緒に、山で迷ってしまった……」
    「トムもそこにいるのね? 2人とも、けがは無いの?」
    「残念だが、2人そろって滑落してしまってね……トムはかなりけがをしているようだ」
    「トムは生きてるの? どうなの?」
    「少し待ってくれ、今確かめてみる」

     パン。

    「聞こえるかいキャサリン、残念ながらトムは死んでしまっているようだ」
    「そうなの……」

    「ジョン、君と僕は一生の友だよな」
    「何をいまさら言うんだい、ボブ。当たり前じゃないか」
    「すまないね。たまには確認してみたかったわけだ」
    「そうか。君がそうしたいならそうすればいいよ」
    「さすがジョンだ、君のような友を持って、僕は幸せ者だ」
    「そうだな。いくら金があっても、友は買えないものな」
    「そうだよ。で、今日呼び出した話は他でもない、よき友であるジョン、君だけにいい話を聞かせようと思ってね」
    「いい話?」
    「今、ガソリンが高いだろう? そんな時代に注目されているのが、バイオ・エタノールだよ」
    「バイオ・エタノール?」
    「投資すれば損にはならないよ。で、今日はその投資家を君に紹介しようと思ってね……」 
     
     こうしてボブは、また1人の友を詐欺投資家に売り飛ばした。

    ”国民の願いを聞きましょう”

     そんなキャッチフレーズで総理の座に着いた政治家。
     しかし、彼は国民の期待を裏切り続けた。

     物価は高騰し。
     失業率は増加し。
     税金や保険料は増加した。
     
     国民は彼を見限った。
     もちろん、彼は総理の座を自ら降りなければならなくなった。

     彼は最後の会見に臨んだ。
     そしてマスコミの嫌味たっぷりの質問に答えた。
     ”国民の願いを聞きましょう”は、実現できたのですか。
     最後の最後で、そんな質問が出た。

     総理は鼻息を荒げて言った。
     聞くとは言いましたが、叶えるとは一言も言ってはいませんよ、と。

     こう見えても、私も医者でね。
     
     ええ、何とでもおっしゃったら結構。
     その前に、机の上の札束を、しまってもらいたいね。

     だから、医者なんですよ。
     医者は何のためにいるか、あなたぐらいならご存知でしょう?
     
     そう、だから無理だと言っている。
     医者は病気を治すのが仕事でね。
     元気な人間を病気にするのは、仕事の範疇ではないんですよ。

     素直に言えばいいじゃないですか。
     何もかもうまくいかないからだって。病気を理由にしなくてもいいんですよ。

     そう。この状態では。
     あなたが総理大臣の座を投げ出したって、みんな驚きませんから。

    Script:Ninja Blog  Design by:タイムカプセル
    忍者ブログ [PR]
    ▼ カウンター
    ▼ フリーエリア4
    カスタム検索
    ▼ フリーエリア
    「ブログ王」ランキングはこちらをクリック!

    ブログランキング・にほんブログ村へ

    にほんブログ村 小説ブログへ

    にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ





    ▼ お天気情報
    ▼ カレンダー
    01 2026/02 03
    S M T W T F S
    1 2 3 4 5 6 7
    8 9 10 11 12 13 14
    15 16 17 18 19 20 21
    22 23 24 25 26 27 28
    ▼ プロフィール
    HN:
    たそがれイリー
    年齢:
    50
    性別:
    男性
    誕生日:
    1975/07/16
    ▼ 最新TB
    ▼ 最新CM
    [04/29 hikaku]
    [03/13 ごま]
    [10/16 melodies]
    [09/18 sirube]
    [09/16 よう子]
    ▼ 忍者アド
    ▼ バーコード
    ▼ ブログ内検索
    ▼ アクセス解析