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2008.7.12開設。 ショートショートを中心として、たそがれイリーが創作した文芸作品をご覧いただけるサイトです。 できれば毎日作品を掲載したいと思ってます。これからも創作意欲を刺激しながら書き綴って参ります。今後ともぜひご愛顧ください。

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     キー、キー。

    「おや、ツルが罠にかかっている」
    「これはかわいそうだ。早く罠からはずしてやらないと」
    「それから手当てだ。縁起のいい鳥がこんなになっていると、罰があたるぞ」
    「そうだな、早速保護しないと」

     キー、キー。

    「おや、サギが罠にかかっている」
    「詐欺は犯罪だからな。しばらくこうして罰を受けてもらおう」

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     ここは、大統領選挙まっただなかの、選挙事務所。
     そこに集まっているのは、とある候補所が金にものを言わせて雇った探偵たち。それも数十人規模で。
     
     狭苦しい事務所の一室に彼らが集まったのを見計らって、1人の女性が姿を現す。
     もちろん、それは現在苦戦を強いられているとある党の大統領候補なのだが・・・彼女は普段のようなプライドをかなぐり捨て、眼前の探偵たちに懇願した。
    「選挙に勝ちたいの」
     そりゃそうだろうな・・・探偵たちはニヤニヤと笑いながら、手渡された小切手の金額を見つめる。
     そんな探偵たちの姿を気にするわけでもなく、彼女は依頼を話し始める。
    「あなたはアイツの女性スキャンダル、あなたは弁護士時代のトラブルを、そこの髭を生やしたお兄さんは家族や親族のスキャンダル。隣の女性探偵さんは、邸宅付近の奥様方から。とにかく手分けをして、アイツのスキャンダルになりそうなニュースソースを見つけてきてちょうだい!」
     もちろん、成功報酬は別途用意しています。
     彼女のその言葉にいきり立ち、探偵たちはさっそく部屋を飛び出していった。
     そう、1人の男をのぞいて。

    「あの、すみません。私は依頼をお聞きしていないのですが」
     1人だけ残された探偵は、おそるおそる彼女に問いかけた。
     彼女は先ほどとはうってかわって、優しいまなざしを探偵に投げかけてくる。
    「あなたには別に調べて欲しいことがあるのよ」
     それは、なんでしょうか。
     探偵は、彼女の視線におくすることなく、依頼を述べるよう告げた。

    「最近ね、自分で自分を悪人としか思えないのよ・・・だから、探してきてちょうだい、私のいいところ」

     風情のある町並みの中の、小さなバス停。
     ここにレトロなバスが通るという。
     風景写真を撮りたくて仕方がなかった僕は、遠路はるばるこの町まで来た。

     早速、そのさび付いたバス停の、時刻表を読みとる。
     おかしい、時刻表がない。廃止されたのだろうか。
     傍らの民家の軒下で、さやから小豆を取り出している老婆がいる。僕は尋ねてみた。
    「バスは来るべさ」
     時刻表もないのに。僕は老婆に聞いた。いつバスが来るのかと。
    「もうすぐ来るべさ。私も乗るけん」
     私も乗るけん。その言葉を信じて、僕はバスを待つ。

     5分ほど経った頃だろうか。
     バスはやってきた。
     だけど、今時の最新鋭の、新車の香りがするようなバスだった。
    「あんたも、のりんさるかね。だけど、あんたが乗るバスじゃないと思うべさ」
     入れ歯を口の中でもごもごさせながら、老婆は人の手を借り、そのバスに乗り込んでいった。

     デイサービス送迎バス。
     そのバスは、乗っている人がレトロなバスだった。

    「そこで右だね。右に切りなさい」
    「あれ先生、こう言うときは危険回避だから・・・」
    「スベコベ言わずに、右っ!」
    「は、はいっ!」
    「ほら見ろ・・・言ったとおりだろ」
    「ほんとだ・・・危うく当たっちゃうところだった」
    「おいおい気を抜くんじゃないよ、次は正面だ!」
    「しょ、正面!」
    「右に切る?左に切る?」
    「えーっと・・・どっちにしよう・・・」
    「当たっても死なない程度に考えるしかないね。最小限の被害に食い止めるような当たり方ってのもあるんだからね」
    「そうですか・・・じゃあ・・・右で」
    「よし、僕もそう思うから、右に切りなさい」

    「これ」
    「ロン、ハネ満」
    「先生・・・左の方が安かったですよ・・・」
    「対面の方が上がられても安かったな・・・ま、授業料って事で・・・」

    「ばあさん、今日も暑いな」
    「そう思ってね、爺さんのためにこれを」
    「おや、スイカでないか」
    「夏と言えばスイカですって。よぉ実がなって、ええ音をさせるんですじゃ」
    「ばあさんや、本当は昨日と同じじゃのうて、スイカじゃのうて桃でも食べたかったんじゃがのう」
    「そう言えば、桃ならさっき裏の川で洗濯してるときに流れてきていたんですけど・・・あまりにもおおきゅうて、婆の手にはおさまらんかったのです」

     こうして日本の昔話は、また1つ現代から姿を消す。

    「まあ、俺たちの話を聞いてくれないか」
    「すべこべ言うな。今更言い訳など聞いたって、お前らの寿命は今日でつきるんだからな」
    「それなら、遺言のつもりで聞いてくれてもいいじゃないか」
    「ちぃ、それなら、聞いてやろうじゃないか」

    「昨日の晩、俺たちはすき焼きをしたんだ」
    「それが、どうした?」
    「いつもなら、オーストラリア産の牛肉でな、脂身に乏しくて、まるでビーフジャーキーをそのまま煮て食っているようなものだ」
    「だから、それがどうした」
    「ところがだ、昨日に限って、俺たちの中に1人、羽振りのいい奴がいてな」
    「そりゃ、結構なことで」
    「そのお陰で、昨日のすき焼きは、なんと国産牛肉だったんだ」
    「Jビーフって奴か」
    「ああ、Jビーフさ!」
    「4人そろって叫ぶことでもあるまい」
    「いいや、国産牛だぞ!国産牛! それをだな…あいつは、あいつは…」
    「早く言えよ」
    「そうさ、あいつは、1人4切れの約束を反故にして、5切れも食べたんだ!」
    「くだらねぇ」
    「なんだと!4切れと5切れじゃ、満足度も栄養価も違うんだぞ!」
    「だから、4人そろって叫ぶのやめろよ」
    「それになぁ、あいつが5切れ食べたということは、誰かが3切れしか食べられなかったんだ!」
    「…」

    「俺たちは怒ったさ、激しく怒ったさ! それで…」
    「いつも5人いるのに、今日は4人なんだな」
    「だから、正直言って、今日は勝てそうな気がしない。手加減してくれないか」
    「お前ら、本当にヒーロー戦隊か?」

    「先生、私はいつになったら健康な体を取り戻せるんでしょうか」
    「と、言われますが、そもそもですね・・・私どもの指示に従って、投薬や食事療法を行なっていただいてますよね?」
    「ええ。それ以上の努力をしております」
    「それ以上の・・・」
    「鮫肌エキス、深層水、ケール、青汁、クロレラ、にんにく卵黄、黒酢、うなぎエキス・・・とにかく、世間一般で評判のあらゆる健康食品を摂取しておりますし、なにより健康番組で取り上げられたことはすべて試しております!」
    「・・・わかりました。でもね、とりあえずはきちんと食事を取ってください。それが基本ですので」

    「こちらは税務署です。税金の還付がありますので、お返しをしたいのです」
    「それはありえないですよ。そんな話があるわけがない」
    「奥さん、それがあったんですよ。3年ほど前に申告をしていただいておればよかったのですが、最近の調査でようやくわかったもので、こちらからのご連絡が遅くなって申し訳なく思っております」
    「3年前の税金が、返ってくるって事ですか?」
    「平たく言えばそうですね。全額ではありませんが」
    「で、どうしろと言うのです?」
    「今ならオンラインでお申し出いただければ、ATMから還付の手続きができますので、さっそくにでもお願いできれば」
    「ははぁん、あんた、流行の詐欺師だね!」
    「そんな、いきなり失礼ですよ」
    「だって、うちは先祖代々税金なんて納めちゃいないよ!滞納してるよ、滞納!」

    「それにしても、よくわかりましたね」
     署長は感嘆しながら、男に茶を勧める。
     そして、ありきたりの美辞麗句を連ねて、男の功績をたたえる。
     褒められて機嫌の良くなった男は、気分よく話し始める。
    「なんか、怪しいなって思ったんですよ。いやあ、だってねぇ・・・午前2時ぐらいだったかな、そんな時間帯に、どうしてマンションのベランダに人がいるんだろうって」
    「なるほど、それは確かに怪しいですね」
    「でしょう?! そこでまあ、私は早速携帯電話を取り出して警察に連絡をしたわけです。通報が少しでも遅かったら、女性の命は危なかったかもしれませんね。なにしろ、そちらが駆けつけてこられた時、まさに犯人が部屋に侵入しようとしていた瞬間でしたからね」
    「おっしゃるとおりです。実にぎりぎりのタイミングでした」
    「まあ、犯人が逃げたとしても、このカメラで奴の顔はしっかりと収めてましたよ。どちらにせよ、私に見つかったのが奴の運の尽きですね」
    「なるほど・・・」
     
     署長は少々表情を曇らせて、上機嫌の男に質問する。
    「しかし、あなたはなぜあの時間に、その暗視カメラを持って隣のビルにいたんですか?!」

    「おめでとう!通算10000ポイントだよ!」
     目の前に煙がたちこめ、それが消えると木の杖をついた老人。
     まるで神様みたいだな。そう思っていた男に、老人は言う。
    「わしはご覧のとおり神。さっき、君は車にはねられそうになった子どもを助けたね。それで10000ポイントなんだよ」
     神と名乗る老人の言葉を、男はさっぱり飲み込めない。
     神はまるで小説の種明かしをする筆者のごとく、説明じみた台詞をはく。
    「人間の振る舞いに、神はポイントを与えているのじゃよ。それが節目になった時、わしらの出番なのじゃ」
     よくわからないが、自分が何かの恩恵にあずかれるのだろうと言うことはわかった男。
    「さあ、10000ポイントだと、お前の望むことを1つだけかなえてやろう。多少制限はあるがな」
     多少? 男は鋭い目線を神に向ける。
    「ただし、何でもかなえてくれとか、何回でもかなえてくれとか、そういうのはだめだ」
     神は予防線を張りつつ、男に返答を催促した。

     男は少々考えると、神に願いを告げた。
     ポイント100倍でどうだ、と。
     そう、今日以降の善行に、ポイントを100倍でつけてくれ、と。
    「むむ、そんな抜け道があったとは・・・回数を増やすわけではないし・・・むむむ」
     やむを得まい。わしの説明が悪かったのだ。よかろう。
     神は脂汗を浮かべながら、男の願いをかなえることを約束した。

     神が姿を消してから、男はなんだかよくわからない気分であった。
     だが、目の前で神が神らしく一瞬で姿を消したことを見て、懐疑的な気分は薄れていた。
     そして、早く善行を積まねばと、都会の喧騒の中をきょろきょろ見回していた。

     すると、目の前で老婆が荷物を抱えて困っている。
     これはすごいポイントになるぞ。男は手前の横断歩道が赤信号なのもかまわず疾駆した。
    「おいおい、そこの旦那」
     老婆にたどり着く直前に、男はいきなり右肩を叩かれた。
     男は怒り心頭の面持ちでその方向に振り返ると、黒いコートを羽織った男が、八重歯を出して笑っている。
    「あんた、悪いことしたね。俺は死神さ。罰を与えに来たぜ」
     罰? 何を言うんだ? 男は死神に食って掛かる。
    「お前、さっき信号無視したろ。それでポイント達成だ。お前さんの悪行、死んで償ってもらえとの裁定だよ」
     死ぬ? 悪行? 信号無視で?
     男は死神の首をつかみ、渾身の力で締め付ける。
    「何をやっても無駄さ。お前さんのポイントは100倍だったからな」
     
     100倍?
     さっき神は約束したが、それは善行ポイントのはずだ!
     男は死神に食って掛かった。
    「ああ、100倍だろ。善悪ポイント。お前さんの悪行も100倍になるんだよ。神の野郎、ちゃんと説明しなかったのか?」

     そろそろ、ギャンブルなんかやめたらどうだ。
     そんな一得の勝ち負けなんかで一喜一憂してどうする。情けない。
     そんな親父の説教に、息子は感情的に反論する。
    「親父だってやってみればわかるって。やってもないのにどうこう言うのがおかしいよ」
     
     悪びれることもなくそう言い切った息子を、親父は鋭くにらみつけた。
     何を言う・・・俺だってギャンブルぐらいしたことがある・・・だから言うんだ・・・ギャンブルなんてやめてしまえとな・・・親父は目にうっすらと涙を浮かべながら、台所の方を見つめた。
     台所では、2人の男たちが何もしないことに対して、明らかに嫌悪感を示している母親が、何も言わずに皿を洗っていた。

     その日以来、息子はギャンブルをぴったりとやめた。

     彼女が病に倒れて、半年。
     そして彼女が亡くなって、2ヶ月。
     1年も経たぬ間に、僕は寂しさとむなしさを味わっていた。

     そんな時だった。
     藁にもすがる思いで、手に取った宗教書。
     その宗教書は、中世に存在した魔法使いが記したと言われる『生命再生』の術が書かれていたのだった。
     
     僕は信じた。
     本に書かれているがまま、準備を進めた。
     誰も来ないような山の中に、ドラム缶が入るような穴を掘り、その中に僕が入り込む。
     僕が入ってから、上に蓋をかぶせ、雨露だけはしのげるようにした上で、ただひたすら彼女の生命再生を願い、彼女の名前を連呼し続けるのだという。これを1ヶ月続けるのだという。もちろん、断食し、あらゆる煩悩を捨てなければいけない。

     僕は実践した。
     30日経てば、彼女の生命は再生され、僕の目の前に、在りし日の笑顔を浮かべる彼女が帰ってきてくれる。
     来る日も来る日も彼女の名前を唱え続けた。
     
     すると、5日目・・・ぐらい経ったころだろうか。
     僕は彼女と再会した。
    「マイコ!」
    「トオル!」
    「逢えて良かった・・・」
    「魔法を使ったんだ。君の命を再生する魔法をね」
    「・・・え・・・」
    「どうしたの? 嬉しくないの?」
    「違うの。私は死んだままだよ。あなたが、私のいる世界に来てくれてるって、そう思っていたんだけど・・・」

    どうも。
    金八先生に憧れたけど、理想と現実は違うなって、ようやく気付いた、ただの教師です。

    いじめ問題では、お役に立てず申し訳ない。
    やっぱり、自分の身がかわいいんで、その辺りご理解ください。

    最近は『のむ・うつ・かう』にはまってます。

    胃カメラを、のむ。
    鬱病の、うつ。
    しゃれにならないです。

    え?
    『かう』ですか?
    今も既にかってますよ!

    私を含めて、大半の教師はかってますよ、反感を!

    「電車男みたいに、素敵な女性を偶然助けて、大人のキスでも出来るような・・・そんな恋愛をしてみたいのです」

     またこのパターンか。神は嘆いた。
     そんな神の苦悩を知ってか知らずか、男は願いを叶えてくれるよう、神に懇願する。

    「わかったから、わかったから、泣くなって!」
    「では神様、願いを叶えてくださるのですか?」
    「うーん、この前の女のパターンもあるしなぁ・・・わかった。では条件を出そう」
    「このまま、男一人で寂しく死ぬぐらいなら・・・どんな条件でも呑みます!お願いします!神様!」
    「わかった!わかったからしがみつくなって・・・コホン、条件とは・・・お前がなりたいという”電車男”と言う、そのものの存在になると言うこと。そして世の中に働くこと。それだけだ・・・どうだね、それでもお前は、願いを叶えてくれと言うかね?」
    「もちろんです。私はそのために、こうして長い階段を歩いてきて、神様の元をお尋ねしているのです。悔いもありませんし、覚悟も出来ております」
    「よろしい。それなら・・・」

     この男を、電車男に!
     神様は、いつものように木の杖を振りかざし、男の前にかざした。
     雷鳴がとどろき、地上に降り注ぐ落雷の、その一筋が、男の身体を包み込む。

     しばらくして、男は目を覚ました。
     その様子を確認し、神様は男に問いかける。

    ”しかと願いは叶えた。では、もう1つの条件・・・世の中のために働くこと。早速頑張るがいいぞ”

     男は神に訊ねた。
     早速と言われましても、何をすればよいのでしょう。

    ”簡単なことだ。ほら、お前の目の前に歩いてくる者がおろう。その者がすべてを教えてくれるはずだ”

     神に言われ、男は視線を動かしてみる。
     すると、知らぬ間に自分の傍らに、シルクハットを身につけた紳士が立っていた。
     その紳士は、ステッキを片手に、陽気に話しかけてくる。

    「やあトーマス! 今日もしっかり働いてくれよ!」

    「患者は?」
    「両足を負傷しています。出血が激しくて、輸血が必要だと思います」
    「で、一緒に担ぎ込まれた、こちらの女性は?」
    「この男性患者の妻です。一緒に搬送されました」
    「それにしても…どうやったら、両足にこんなケガをするんだ…それも、夫婦そろって同じ箇所だ」
    「かじられたそうです」
    「??」
    「息子と娘に、スネをかじられたそうです。もう痛みに耐えられないと」

     電話口で、彼女がシクシク泣いていた。
    「食べてすぐ寝ちゃったの。そしたら、起きてみると・・・牛になってるのよ、牛」
     訳のわからない話をするもんだから、僕はバイクに飛び乗って彼女の家に向かう。

     そしたら彼女は、本当に牛になっていた。
    「どうしよう。もうあなたと結婚もできないわ」
     そんなことないよ。僕はいつまでも君のことが好きだよ。
     そうは言ったものの、実際に彼女を牛から人間に戻す方法なんて、見つかりっこなさそうだった。
    「もういいの。私を殺して」
     黒い目から大粒の涙を流す牛、いや彼女。
     確かに、このまま生きていても、彼女は苦しいだけだろう。

     僕は知り合いの肉屋に電話した。
     食べ頃の牛がいるから、買って欲しいのだと。
     そしたら、3日後にトラックが来て、彼女は数人の男たちに「上物だな」「しかしなんでこんな所に牛が」と言われながらトラックに乗せられ、運ばれていった。
     僕はそのトラックの後を追い、そして彼女の姿が見えなくなるところまで、見送った。

     さあ、僕も今すぐ、行くからね。
     僕は腹一杯あらゆる食材を食べ、そしてビールを一気に飲み干すと、ボロアパートの畳の上にゴロンと身を横たえた。
     食べてすぐ寝て、僕も牛になろう。そして彼女の後を追って、一緒に天国で一生仲良く暮らそう。そう言う気持ちだった。

     数時間後。
     僕は目を覚ますと、自分の手が人間の手であることに気づいた。
     ダメだ。食べ方が足りなかったか、寝る方法が違ってたんだ。
     もう一度胃袋を死にものぐるいで満たし、そして今度はウイスキーをストレートで流し込み、もう一度身を横たえる。今度は大丈夫だろう。そう信じつつ。

     数日後。
     僕は自らの姿が変化していることに気がついた。
     やった。これで彼女の後を追える。一瞬そう思ったが、目の前の薄汚れたガラスに映った自分の姿を見て、愕然とした。

     食べ過ぎ、飲み過ぎ、寝過ぎを繰り返した僕は、牛ではなくて豚になってしまったのだった。

    「離れていただけませんか?」
    「そうしたいのですがね、こちらにも都合がありまして」
    「人を呼びますよ。まるで痴漢です」
    「いえ、ですからこういう体勢になっているのは、私自身の問題でもありますが、なんと言いましょうか、外的要因もあるんですよ」
    「そんなことはいいので、早く離れてください。とにかく」
    「イ、イテテテテテ」
    「何芝居じみたこと言ってるんですか。私が被害者ですよ。あなたが被害者みたいな芝居を演じるなんて変です」
    「ですがね、痛いものは痛いんですよ」
     
     こうして、狭い革靴の中で、外反母趾に悩む親指は人差し指に押しきられ、苦痛にあえぐこととなる。

     プシュー。ガタガタ。
     日焼けマシンのようなカプセルが、水蒸気を発しながら、ゆっくりと開いていく。
    「確かに、あなたの曾祖父になられるんでしたっけ」
    「曾祖父? いや、もう一つ上のじいさんだったような気がしますが」
    「我々子孫も、お恥ずかしい話ですが、このような先祖がですね、不治の病を抱えて冬眠しているなんて、つい最近知ったものですから」
    「まあ、曾祖父でも、もっと上の方でも結構です。私は医師としてですね、不治の病を治癒しなくてならないんですよ」
    「ああ、そうでした。しかし、不治の病がなんだったのか、皆目見当がつきません」
    「とりあえず、手当たり次第切ってみたらどうです、先生」
    「それができたら苦労しませんよ。切るって言われましても、やっぱりご親族の許可をいただかないとねぇ」
    「じゃあ、とりあえず、腹部でどうでしょう。どうせ、末期ガンとかじゃないの?」
    「末期ガンだったら肺じゃないの? 肺を切ってみたらいいよ」
    「おそれいりますが、何か手紙とかですね、どこが悪いから治してくれって言うメッセージ、残ってないですか?」
    「あ、これかも。もしかして」
    「あ、診断書があるよ。きっとこれだ。先生、これでいいようにやってくださいよ」
    「あるなら早く見せてくださいよ、どれどれ」
    「どうです、先生?」
    「…」
    「ん? なんです? 先生?」
    「これは、100年経っても、これから先も、治せそうにないですよ」
    「あらら、そんなに悪い病なんですか」
    「せっかく100年我慢してたのにねぇ、このじいさん、また冬眠だね」
    「ちなみに先生、いったい何の病気なんでしょう?」
    「健忘症です。これはいつまで待っても、治せませんよ」

    「あんたの会社の入ってるビル、なんとかヒルズだったか、あれも耐震設計が偽装されてたそうだ」
    「粉飾決算と耐震設計の偽装を引っかけてるわけですか。それなら結論も同じですよ、僕はやってません。みんな、部下がやったことです」
    「おう、そうか。ビル会社の社長も、設計会社の社長も、同じ台詞を言ってたぞ」
    「部下を信頼して、裏切られた僕も、被害者ですよ」
    「株は暴落して、あんたの会社を信じてその株券を購入した人たちも、被害者だわな」
    「株はリスクです。会社を信用するには、長期的な視野を持たないと。決算だけを見て株を購入するには、リスクがつきものです」
    「そうか、だったらあんたがマスコミに出まくって、威勢のいいことを言ってたことも、会社の信用を偽装した事になるな」
    「偽装、偽装って、さっきから、いや1週間前から言ってるように、僕は粉飾決算を指示してません。みんな、部下がやったことです」
    「いつまでもそう言ってろ。お前がどう言い張ったって、お前の愛すべき部下さんは、お前の指示だったって白状し続けるんだ。やがて、メールだか書類だか、とにかくお前さんの指示が合ったことを明確にする証拠は、取調室の机に並べられるんだよ」
    「で、これも証拠と言いたいわけですか」
    「そのとおり。お前さん、このメールで明らかに利益の付け替えを指示しているな。メールのログも押収させてもらった。明らかに、お前さんのパソコンから送信されている」
    「ははははは、こりゃ滑稽だ。電子メールが証拠になる世の中なんだ」
    「笑うだけの余裕があるのかね。それとも、お前さんがこのメールの送り主でないことを、この場で照明できるのかね」
    「ええ。簡単なことです。私の名前が違ってます。ガセですよ、これ」
    「ああ? お前はホリエじゃないのか?」
    「違いますよ。ホリエは偽装ネームです。本当の名前はヤマダ・タロウなんですから」

     里帰りはしたものの、もともと東京の大学に私が通うことを許さなかった親父とこたつで2人きりになるシチュエーションは、正直想定してはいなかった。もちろん、勘弁して欲しい。
    「みかん、取ってくれ」
    「あいよ」
     ちょうど私がミカン箱に近いこともあって、親父は小間使いのように21歳になったばかりの娘をこき使う。
     私も私で、手渡しするほどの気力もなく、ミカン箱に手を突っ込み、適当に甘そうな奴を手のひらに収まるほどつかみ、こたつの端からコロコロところがしてやると、父親に向かってそれは突進し、そしてポトリと落ちた。
     もちろん、父親が礼を言うことはない。
     大晦日の午後だというのに、こんな繰り返し。
     近所の美智子や里江に会いに行きたいと思っていた。特に里江は母親になったそうだ…一目母親になった友に会いに行きたいものだが、母親がそれを許さない。
    「今日は、今日だけは、そばにおったんさい。午後の2、3時間ほどのことじゃきに」
     あの母親が懇願する…私が東京に行くのを必死に説得してくれた母の願いだ。聞かぬ訳にはいかなかった。
     
    「ただいま」
     母親の声がする。私はこたつを飛び出し、ついでにコートを羽織った。
    「おかえり」
    「もう出かけるとね」
    「義務は果たしたと。里江と、美智子に会ってくる」
    「ちょっと、まちんさい」
    「なにが、もう義務は済んだとね」
    「あと1時間でええ、あと1時間…そばにおったんさい」
     母親のすがるような態度に、私も折れた。
     コートを脱ぎ捨て、マフラーだけを首に巻き、私は再び居間へ戻った。

     相変わらず、親父は何も言わなかった。
     テレビの中では、売れない芸人が出てきては、火の輪くぐりをするか、他人をこき下ろすか、そんな番組の繰り返しだった。
    「チャンネル、変えていいぞ」
     父親は私にリモコンを投げつける。
    「投げなくてもいいでしょ」
    「…」
     私はのどから出かかった言葉を言おうとしたが、それを止めた。
     ゴルフばっかり見て。どうせプロ選手のゴルフばかり見たって、あんたのスコアが良くなるわけじゃないでしょ。
     そう言えば、今日も昨日も、親父はゴルフ番組を見ていない。
     それどころか、こたつに入ってクラブを磨いているわけでもなく、それより…ゴルフクラブはどこへ行ったの?親父ぃ!
    「…」
     無言のままお笑い番組を見続ける親父。おまけにクスリと唇をふるわせて笑う時もある。
     やめてよ親父、そんなの、親父らしくないじゃない。
     私の心の叫びは、親父に届いてるんだろうか。
     
    「届いてたんじゃないの?」
     妹は火葬場の上に立ち上る煙を見つめながらつぶやいた。
    「そうかなぁ」
    「そうだよ」
     妹は数珠を握りしめ、そしてつぶやいた。
    「親父…最後まで、親父だったのかな」
    「そう思ったら、納得するの?」
     妹の言葉が、私の心を振るわせた。
     涙が知らぬ間に、頬を伝うのを感じた。
     でも、少しだけ後悔した。
     親父が元気なときに、こんな姿を見せても、よかったのかなって。
     ごめんよ、親父。

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