2008.7.12開設。 ショートショートを中心として、たそがれイリーが創作した文芸作品をご覧いただけるサイトです。 できれば毎日作品を掲載したいと思ってます。これからも創作意欲を刺激しながら書き綴って参ります。今後ともぜひご愛顧ください。 |
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ここは、大統領選挙まっただなかの、選挙事務所。 風情のある町並みの中の、小さなバス停。 「そこで右だね。右に切りなさい」
「あれ先生、こう言うときは危険回避だから・・・」 「スベコベ言わずに、右っ!」 「は、はいっ!」 「ほら見ろ・・・言ったとおりだろ」 「ほんとだ・・・危うく当たっちゃうところだった」 「おいおい気を抜くんじゃないよ、次は正面だ!」 「しょ、正面!」 「右に切る?左に切る?」 「えーっと・・・どっちにしよう・・・」 「当たっても死なない程度に考えるしかないね。最小限の被害に食い止めるような当たり方ってのもあるんだからね」 「そうですか・・・じゃあ・・・右で」 「よし、僕もそう思うから、右に切りなさい」 「これ」 「ロン、ハネ満」 「先生・・・左の方が安かったですよ・・・」 「対面の方が上がられても安かったな・・・ま、授業料って事で・・・」 「ばあさん、今日も暑いな」
「そう思ってね、爺さんのためにこれを」 「おや、スイカでないか」 「夏と言えばスイカですって。よぉ実がなって、ええ音をさせるんですじゃ」 「ばあさんや、本当は昨日と同じじゃのうて、スイカじゃのうて桃でも食べたかったんじゃがのう」 「そう言えば、桃ならさっき裏の川で洗濯してるときに流れてきていたんですけど・・・あまりにもおおきゅうて、婆の手にはおさまらんかったのです」 こうして日本の昔話は、また1つ現代から姿を消す。 「まあ、俺たちの話を聞いてくれないか」
「すべこべ言うな。今更言い訳など聞いたって、お前らの寿命は今日でつきるんだからな」 「それなら、遺言のつもりで聞いてくれてもいいじゃないか」 「ちぃ、それなら、聞いてやろうじゃないか」 「昨日の晩、俺たちはすき焼きをしたんだ」 「それが、どうした?」 「いつもなら、オーストラリア産の牛肉でな、脂身に乏しくて、まるでビーフジャーキーをそのまま煮て食っているようなものだ」 「だから、それがどうした」 「ところがだ、昨日に限って、俺たちの中に1人、羽振りのいい奴がいてな」 「そりゃ、結構なことで」 「そのお陰で、昨日のすき焼きは、なんと国産牛肉だったんだ」 「Jビーフって奴か」 「ああ、Jビーフさ!」 「4人そろって叫ぶことでもあるまい」 「いいや、国産牛だぞ!国産牛! それをだな…あいつは、あいつは…」 「早く言えよ」 「そうさ、あいつは、1人4切れの約束を反故にして、5切れも食べたんだ!」 「くだらねぇ」 「なんだと!4切れと5切れじゃ、満足度も栄養価も違うんだぞ!」 「だから、4人そろって叫ぶのやめろよ」 「それになぁ、あいつが5切れ食べたということは、誰かが3切れしか食べられなかったんだ!」 「…」 「俺たちは怒ったさ、激しく怒ったさ! それで…」 「いつも5人いるのに、今日は4人なんだな」 「だから、正直言って、今日は勝てそうな気がしない。手加減してくれないか」 「お前ら、本当にヒーロー戦隊か?」 「先生、私はいつになったら健康な体を取り戻せるんでしょうか」
「と、言われますが、そもそもですね・・・私どもの指示に従って、投薬や食事療法を行なっていただいてますよね?」 「ええ。それ以上の努力をしております」 「それ以上の・・・」 「鮫肌エキス、深層水、ケール、青汁、クロレラ、にんにく卵黄、黒酢、うなぎエキス・・・とにかく、世間一般で評判のあらゆる健康食品を摂取しておりますし、なにより健康番組で取り上げられたことはすべて試しております!」 「・・・わかりました。でもね、とりあえずはきちんと食事を取ってください。それが基本ですので」 「こちらは税務署です。税金の還付がありますので、お返しをしたいのです」
「それはありえないですよ。そんな話があるわけがない」 「奥さん、それがあったんですよ。3年ほど前に申告をしていただいておればよかったのですが、最近の調査でようやくわかったもので、こちらからのご連絡が遅くなって申し訳なく思っております」 「3年前の税金が、返ってくるって事ですか?」 「平たく言えばそうですね。全額ではありませんが」 「で、どうしろと言うのです?」 「今ならオンラインでお申し出いただければ、ATMから還付の手続きができますので、さっそくにでもお願いできれば」 「ははぁん、あんた、流行の詐欺師だね!」 「そんな、いきなり失礼ですよ」 「だって、うちは先祖代々税金なんて納めちゃいないよ!滞納してるよ、滞納!」 「それにしても、よくわかりましたね」 「おめでとう!通算10000ポイントだよ!」
目の前に煙がたちこめ、それが消えると木の杖をついた老人。 まるで神様みたいだな。そう思っていた男に、老人は言う。 「わしはご覧のとおり神。さっき、君は車にはねられそうになった子どもを助けたね。それで10000ポイントなんだよ」 神と名乗る老人の言葉を、男はさっぱり飲み込めない。 神はまるで小説の種明かしをする筆者のごとく、説明じみた台詞をはく。 「人間の振る舞いに、神はポイントを与えているのじゃよ。それが節目になった時、わしらの出番なのじゃ」 よくわからないが、自分が何かの恩恵にあずかれるのだろうと言うことはわかった男。 「さあ、10000ポイントだと、お前の望むことを1つだけかなえてやろう。多少制限はあるがな」 多少? 男は鋭い目線を神に向ける。 「ただし、何でもかなえてくれとか、何回でもかなえてくれとか、そういうのはだめだ」 神は予防線を張りつつ、男に返答を催促した。 男は少々考えると、神に願いを告げた。 ポイント100倍でどうだ、と。 そう、今日以降の善行に、ポイントを100倍でつけてくれ、と。 「むむ、そんな抜け道があったとは・・・回数を増やすわけではないし・・・むむむ」 やむを得まい。わしの説明が悪かったのだ。よかろう。 神は脂汗を浮かべながら、男の願いをかなえることを約束した。 神が姿を消してから、男はなんだかよくわからない気分であった。 だが、目の前で神が神らしく一瞬で姿を消したことを見て、懐疑的な気分は薄れていた。 そして、早く善行を積まねばと、都会の喧騒の中をきょろきょろ見回していた。 すると、目の前で老婆が荷物を抱えて困っている。 これはすごいポイントになるぞ。男は手前の横断歩道が赤信号なのもかまわず疾駆した。 「おいおい、そこの旦那」 老婆にたどり着く直前に、男はいきなり右肩を叩かれた。 男は怒り心頭の面持ちでその方向に振り返ると、黒いコートを羽織った男が、八重歯を出して笑っている。 「あんた、悪いことしたね。俺は死神さ。罰を与えに来たぜ」 罰? 何を言うんだ? 男は死神に食って掛かる。 「お前、さっき信号無視したろ。それでポイント達成だ。お前さんの悪行、死んで償ってもらえとの裁定だよ」 死ぬ? 悪行? 信号無視で? 男は死神の首をつかみ、渾身の力で締め付ける。 「何をやっても無駄さ。お前さんのポイントは100倍だったからな」 100倍? さっき神は約束したが、それは善行ポイントのはずだ! 男は死神に食って掛かった。 「ああ、100倍だろ。善悪ポイント。お前さんの悪行も100倍になるんだよ。神の野郎、ちゃんと説明しなかったのか?」 そろそろ、ギャンブルなんかやめたらどうだ。 彼女が病に倒れて、半年。
そして彼女が亡くなって、2ヶ月。 1年も経たぬ間に、僕は寂しさとむなしさを味わっていた。 そんな時だった。 藁にもすがる思いで、手に取った宗教書。 その宗教書は、中世に存在した魔法使いが記したと言われる『生命再生』の術が書かれていたのだった。 僕は信じた。 本に書かれているがまま、準備を進めた。 誰も来ないような山の中に、ドラム缶が入るような穴を掘り、その中に僕が入り込む。 僕が入ってから、上に蓋をかぶせ、雨露だけはしのげるようにした上で、ただひたすら彼女の生命再生を願い、彼女の名前を連呼し続けるのだという。これを1ヶ月続けるのだという。もちろん、断食し、あらゆる煩悩を捨てなければいけない。 僕は実践した。 30日経てば、彼女の生命は再生され、僕の目の前に、在りし日の笑顔を浮かべる彼女が帰ってきてくれる。 来る日も来る日も彼女の名前を唱え続けた。 すると、5日目・・・ぐらい経ったころだろうか。 僕は彼女と再会した。 「マイコ!」 「トオル!」 「逢えて良かった・・・」 「魔法を使ったんだ。君の命を再生する魔法をね」 「・・・え・・・」 「どうしたの? 嬉しくないの?」 「違うの。私は死んだままだよ。あなたが、私のいる世界に来てくれてるって、そう思っていたんだけど・・・」 どうも。
金八先生に憧れたけど、理想と現実は違うなって、ようやく気付いた、ただの教師です。 いじめ問題では、お役に立てず申し訳ない。 やっぱり、自分の身がかわいいんで、その辺りご理解ください。 最近は『のむ・うつ・かう』にはまってます。 胃カメラを、のむ。 鬱病の、うつ。 しゃれにならないです。 え? 『かう』ですか? 今も既にかってますよ! 私を含めて、大半の教師はかってますよ、反感を! 「電車男みたいに、素敵な女性を偶然助けて、大人のキスでも出来るような・・・そんな恋愛をしてみたいのです」
またこのパターンか。神は嘆いた。 そんな神の苦悩を知ってか知らずか、男は願いを叶えてくれるよう、神に懇願する。 「わかったから、わかったから、泣くなって!」 「では神様、願いを叶えてくださるのですか?」 「うーん、この前の女のパターンもあるしなぁ・・・わかった。では条件を出そう」 「このまま、男一人で寂しく死ぬぐらいなら・・・どんな条件でも呑みます!お願いします!神様!」 「わかった!わかったからしがみつくなって・・・コホン、条件とは・・・お前がなりたいという”電車男”と言う、そのものの存在になると言うこと。そして世の中に働くこと。それだけだ・・・どうだね、それでもお前は、願いを叶えてくれと言うかね?」 「もちろんです。私はそのために、こうして長い階段を歩いてきて、神様の元をお尋ねしているのです。悔いもありませんし、覚悟も出来ております」 「よろしい。それなら・・・」 この男を、電車男に! 神様は、いつものように木の杖を振りかざし、男の前にかざした。 雷鳴がとどろき、地上に降り注ぐ落雷の、その一筋が、男の身体を包み込む。 しばらくして、男は目を覚ました。 その様子を確認し、神様は男に問いかける。 ”しかと願いは叶えた。では、もう1つの条件・・・世の中のために働くこと。早速頑張るがいいぞ” 男は神に訊ねた。 早速と言われましても、何をすればよいのでしょう。 ”簡単なことだ。ほら、お前の目の前に歩いてくる者がおろう。その者がすべてを教えてくれるはずだ” 神に言われ、男は視線を動かしてみる。 すると、知らぬ間に自分の傍らに、シルクハットを身につけた紳士が立っていた。 その紳士は、ステッキを片手に、陽気に話しかけてくる。 「やあトーマス! 今日もしっかり働いてくれよ!」 「患者は?」 電話口で、彼女がシクシク泣いていた。 「離れていただけませんか?」 プシュー。ガタガタ。 「あんたの会社の入ってるビル、なんとかヒルズだったか、あれも耐震設計が偽装されてたそうだ」 里帰りはしたものの、もともと東京の大学に私が通うことを許さなかった親父とこたつで2人きりになるシチュエーションは、正直想定してはいなかった。もちろん、勘弁して欲しい。 |
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